カベルネ・フラン

カベルネ・フラン：多様な魅力を持つ赤ワイン用ブドウ品種

カベルネ・フランは、赤ワイン用ブドウ品種であり、主にボルドースタイルのワインにおいて、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローとのブレンドに使用されます。しかし、ロワールのシノンのように単独で使われることもあります。その他、カナダやアメリカ、アルゼンチンといった国でも栽培されており、アイスワインに仕立てられることもあります。

カベルネ・フランは、カベルネ・ソーヴィニヨンよりも軽く、明るく淡い赤色のワインとなります。より強固なブドウ品種とブレンドすることにより、ワインにフィネスと胡椒のような香りを加えることができます。栽培地域によって、タバコやラズベリー、ピーマン、カシス、スミレなどの香りが生まれることがあります。

歴史

かつてはボルドー発祥と考えられていましたが、現在ではスペインのバスク地方が起源であるとする説が有力視されています。バスク地方に12世紀に建てられた教会に残る記録に"Acheria"というブドウを植えたとの記述があり、これはバスク地方におけるカベルネ・フランの別名であり、カベルネ・フランの最古の記録であると考えられています。

カベルネ・フランはフランス南西部のリブルネ地区に17世紀に定着したと考えられていますが、これはリシュリュー枢機卿がロワール渓谷に苗木を持ち込んだためです。このとき、ブルトンという名前の修道院長の庇護のもとブルグイユ修道院に植えられたことが、後にこの品種がブルトンと呼ばれるきっかけになりました。18世紀までにはカベルネ・フランはフロンサックやポムロール、サン・テミリオン一帯に植えられており、高品質なワインが産出されていましたが、この時はブーシェ（Bouchet）という名前で知られていました。18世紀から19世紀にかけて、カベルネ・ソーヴィニヨンの栽培が広まっていくにつれ、これら2つの品種は近い特徴があると見なされ、近縁であるとの説が浮上しました。1997年には、DNA解析の結果からカベルネ・フランとソーヴィニヨン・ブランが交配しカベルネ・ソーヴィニヨンが産まれたことが分かりました。

栽培

一般にカベルネ・フランはカベルネ・ソーヴィニヨンと極めて近い品種ですが、芽吹きと成熟は少なくとも1週間早いです。このため、カベルネ・ソーヴィニヨンよりもロワール地方などやや冷涼な地域に対する適正があります。ボルドーにおいては、収穫期の悪天候によりカベルネ・ソーヴィニヨンが損害を受ける可能性を見越した「保険」として植えられています。芽吹きが早いため、開花期の初めに花ぶるいという病害を起こしやすいです。樹は直立性が高く頑健で、濃緑色で5つに切れ込んだ葉を持ちます。房は細長い形状であり、やや小さいか中庸程度の大きさです。果実は極めて小さく、青みがかった黒色であり、果皮は非常に薄いです。カベルネ・ソーヴィニヨンよりは突然変異を起こしやすい傾向にありますが、ピノ・ノワールほどではありません。

カベルネ・フランは様々な土壌に適応しますが、なかでも砂の多い白亜質土壌に適しており、重厚なフルボディのワインが産出されます。ロワール渓谷では砂利の多い台地とテュフォの覆われた斜面の間のテロワールの違いをできあがったワインから感じ取ることができます。収量に対して極めて敏感な品種であり、収量が過剰であると青臭い植物性の香りとなります。

生産地域

カベルネ・フランは全世界で50000ヘクタール強の栽培面積があり、世界での栽培面積が17番目の品種です。栽培例はヨーロッパやニューワールド諸国のほか、中国やカザフスタンでさえ見られます。多くの場合、メリタージュとも呼ばれるボルドースタイルのブレンドに用いられ、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローに次ぐ重要度があります。イタリア北東部やアンジュー・ソーミュール、トゥーレーヌ、ボルドー右岸などの地域では、カベルネ・フランはブレンドにおいても主要な役割を占めることがあるほか、単一品種のワインも造られます。

各国のカベルネ・フラン

フランス: ロワール渓谷やボルドーのリブルヌ周辺で主要な品種。サン・テミリオンのシャトー・シュヴァル・ブランやポムロールのシャトー・ラフルールではカベルネ・フランを主体とした高品質なワインが造られています。
イタリア: 北東部を中心に栽培。トスカーナ州ボルゲリやマレンマでは、ブレンドに用いた場合にバランスとエレガントさを発揮すると評価されています。
ハンガリー: ヴィラーニ地方やセクサールドなどで高品質なワインが生まれています。フルボディでタンニンが豊富、スパイスやベリーの香りを持つワインが多いです。
カナダ: オンタリオ州やブリティッシュ・コロンビア州で栽培。冷涼な気候に適しており、ブレンドや単一品種ワイン、アイスワインとしても楽しまれています。
アメリカ: カリフォルニア州でボルドーブレンド用として注目されました。近年では冷涼な地域での栽培が増加しています。
アルゼンチン: マルベックに次ぐポテンシャルを持つ品種として注目されています。単一品種ワインも造られています。

ワインのスタイル

カベルネ・ソーヴィニヨンの持つフェノール類などの香り成分は、大部分がカベルネ・ソーヴィニヨンと共通していますが、いくつか重要な差異があります。カベルネ・フランのほうが色調が明るくなる傾向にありますが、ボディやリッチさは同程度のワインが出来上がります。また、ラズベリーやカシス、スミレ、黒鉛のような香りはより顕著に現れます。一般に青い植物性の香りが特徴であるとされますが、これには草のような香りからからピーマンの香りまで幅があります。カベルネ・ソーヴィニヨンよりもわずかにタンニンは少なく、なめらかな口当たりのワインとなることが多いです。ニューワールドではより果実味が強いことが多いですが、これは青臭さを避けるためにブドウの収穫を遅らせていることに起因する可能性があります。

カベルネ・フランは、その多様なテロワールと栽培方法によって、様々な表情を見せる魅力的なブドウ品種です。

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