カマリナ

カマリナ：古代シチリアの興亡と教訓

カマリナは、古代シケリア（現在のシチリア島）に存在した都市です。現在のラグーザ県ヴィットーリアに位置し、その遺跡はスコグリッティ地区の海岸沿いにあります。この地には、古代都市の痕跡と、その歴史を物語る考古学博物館がひっそりと佇んでいます。

都市の歴史

カマリナは、紀元前599年にシュラクサイによって建設された植民都市でした。しかし、その歴史は平坦ではありません。紀元前552年には、母都市であるシュラクサイによって破壊されるという憂き目に遭います。その後、ゲラの人々によって紀元前461年に再建されますが、シュラクサイとの関係は良好とは言えませんでした。紀元前427年にはアテナイ艦隊と同盟を結び、シュラクサイと対立。しかし、紀元前415年から紀元前413年のアテナイのシケリア遠征の際には、シュラクサイを支援しています。紀元前405年にはカルタゴによって破壊され、紀元前339年にティモレオンによって再建されるという、波乱万丈な歴史を歩みました。その後、第一次ポエニ戦争中の紀元前258年には共和政ローマの支配下に入り、853年に完全に破壊されました。

破壊後、カマリナの跡地は急速に砂丘化し、周辺に石材が少なかったこともあり、ゲラの人々によって採石場として利用されるという悲しい運命を辿ります。その結果、現在ではアテーナー神殿の壁の一部と、いくつかの住居の基礎部分が残るのみとなっています。しかし、発掘調査によって城壁の一部が確認され、ネクロポリス（古代の墓地）の研究も進められています。

湿地と伝染病の物語

カマリナの歴史を語る上で欠かせないのが、湿地を巡る逸話です。カルタゴによる略奪の少し前、カマリナでは原因不明の病気が蔓延していました。都市の北方には湿地帯が広がっており、これが敵の侵入を防ぐ役割を果たしていましたが、同時に疾病の原因ではないかと考えられていました。当時、細菌説はまだ提唱されていませんでしたが、人々は経験的に沼地と病気の関連性を認識していました（エンペドクレスが湿地帯を乾燥させてセリヌスを救った例もあります）。

そこで、カマリナの人々は神託に伺いを立てますが、病気は自然に収まるため、湿地を排水する必要はないという結果が出ます。しかし、人々の不満は収まらず、街の指導者は神託に反して湿地の排水を決定します。その結果、湿地は乾燥し、カルタゴ軍を阻むものは何もなくなってしまいました。シュラクサイのディオニュシオス1世は街の放棄を命じましたが、カルタゴ軍は乾燥した湿地を通り、街に侵攻。残留していた住民を殺害し、略奪を行いました。

この湿地の話は、ストラボンによって語り継がれ、カール・セーガンの著書『惑星へ』でも紹介されています。また、後世の作家たちは、この話を「恐怖や神託を無視した行動は、多くの場合、改善しようとした問題を悪化させる」という教訓として伝えています。

遺跡

現在、カマリナに残る遺跡はごくわずかです。アルカイック期の墓地（紀元前7世紀）とアテーナー神殿の一部が残るのみとなっています。近くには紀元前5世紀から紀元前4世紀のアクロポリスがあります。発掘された遺物は、地元の考古学博物館とシラクサの考古学博物館に展示されています。また、考古学公園には、イスラム時代の「Hamman qbel Jamaa」（モスクに入る前に沐浴するための公共の風呂）の遺跡があります。これはシチリアでは唯一のものです。

カマリナの遺跡は、その規模こそ小さいものの、古代シチリアの歴史と文化を今に伝える貴重な遺産です。湿地を巡る教訓とともに、この古代都市の記憶は後世に語り継がれていくことでしょう。

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