ガンデン・ティパ

ガンデン・ティパとは

ガンデン・ティパ（dga' ldan khri pa）は、チベット[[仏教]]ゲルク派の総本山であるガンデン寺の座主であり、ゲルク派全体の最高指導者とみなされる重要な役職です。この地位は、ゲルク派の開祖であるツォンカパの後継者と位置づけられ、その職務は多岐にわたります。

ガンデン・ティパの職務

ガンデン・ティパの主な職務は以下の通りです。

ラサ大祈願祭（モンラム・チェンモ）の長: 年に一度開催される大規模な祈願祭で、法要を主宰し、ゲルク派全体の精神的な指導を行います。
説法と廻向: 公の場での説法を通じて仏教の教えを広め、亡くなった人々への廻向を行います。
ガンデン寺における教育: ガンデン寺において、顕教と密教の両方の書物について僧侶たちを教育し、次世代の指導者を育成します。

ガンデン・ティパの歴史と特徴

ガンデン寺の座主職は、学識と修行において最も優れた人物が就任するという伝統が早くから確立されました。15世紀から16世紀にかけて、ゲルク派が化身ラマ制を受け入れる中で、他の大僧院では座主職が化身ラマの指定席となることが多かったのですが、ガンデン寺では、個人の資質と能力を重視し、資格試験と役職経験を経て、7年の任期で交代する伝統が現在まで続いています。

1642年以降、ダライ・ラマがゲルク派の有力な化身ラマから、チベット全体の宗教的権威へと変化したにもかかわらず、ガンデン寺では、ガンデン・ティパの座席がダライ・ラマよりも上座に設定されるなど、その重要性が示されています。チベットの仏教徒の間では、ガンデン・ティパは「ゲルク派で最も偉いラマ」と認識されています。

チベット動乱の際、多くの僧侶とともにガンデン寺の組織は亡命し、インド南部のムンゴッドで再建されました。現在も、ガンデン・ティパを中心に活動を続けています。

ガンデン・ティパへの道

ガンデン・ティパになるためには、非常に厳しい道のりを経る必要があります。

1. 顕教の学習: ラサ三大寺（ガンデン寺、デプン寺、セラ寺）で20年から30年かけて顕教の学習課程を修了し、博士号（ゲシェー号）を取得します。特に、最高ランクである「ラランパ・ゲシェー」号を取得した者は、国家試験に進みます。
2. 国家試験: 毎年正月の大祈願祭の際、ラサ・トゥルナン寺で行われる国家試験を受け、上位7位に入ると、その後のキャリアパスが明確になります。
3. 密教寺院での修行: ゲルク派では、顕教の学習を終えた者は、ギュメ寺（下密院）またはギュト寺（上密院）に進みます。ラランパの1位または2位の者は、ダライ・ラマによって、両寺のラマウンゼ職、僧院長（ケンポ）、ケンスル職（元ケンポ）に順次任命されます。
4. チョェジェへの就任: その後、ギュメ寺出身者はチャンツェ・チョェジェに、ギュト寺出身者はシャルツェ・チョェジェに就任します。
5. ガンデン・ティパ: チャンツェ・チョェジェとシャルツェ・チョェジェが交互に7年の任期でガンデン・ティパに着任します。退任後はティスル（元ティパ）と呼ばれます。
6. 転生者の捜索: ガンデン・ティパが亡くなると、その転生者が捜索され、新たな化身ラマが誕生します。

中国統治下のガンデン寺

中国共産党政権は、宗教を「迷信」とみなし、当初は寺院組織に直接関与することを避けました。代わりに、寺院ごとに民主管理委員会を組織し、有力な僧侶を委員に据えることで間接的な管理を行いました。ガンデン寺では、チベット動乱後、ポミ・チャンパ・ルンドゥプ・リンポチェが「ガンデン寺民主管理委員会主任」に任命されました。

文化大革命中、ガンデン寺は活動を停止しましたが、1980年代に宗教活動への規制が緩和された後、ポミ・リンポチェらによって活動が再開されました。ポミ・リンポチェは1988年に中国統治下のチベットに残った僧侶たちからガンデン・ティパ代理に選出されましたが、中国政府はこれを公式には認めませんでした。彼はその後も「ガンデン寺民主管理委員会主任」として活動し、中国政府が選出したパンチェン・ラマ11世の選定にも関与しました。

ガンデン寺民主管理委員会主任とガンデン・ティパ代理

ガンデン寺民主管理委員会主任は、中国政府による宗教政策のもとで設置された役職で、ポミ・チャンパ・ルンドゥプ・リンポチェがその代表を務めました。ガンデン・ティパ代理は、中国政府が認可したものではありませんが、チベットに残った僧侶たちの意向によって選出されたものです。

参考文献

松巴堪欽『松巴佛教史』甘民族出版社, 1992
河口慧海『チベット旅行記』(三),講談社学術文庫265, 1978
河口慧海『チベット旅行記』(四)講談社学術文庫266, 1978
多田等観『チベット』岩波新書91, 1942/1982特装版
青木文教『秘密の国　西藏遊記』中公文庫560, 1990
ツルティム・ケサン著(新井慧誉訳)『チベットの学問仏教』山喜房仏書林, 1979
ツルティム・ケサン／正木晃『チベット密教』（ちくま学芸文庫230、2000）
ツルティム・ケサン／正木晃『増補版　チベット密教』（ちくま学芸文庫、2006）
イザベル・ヒルトン／三浦順子訳『ダライ・ラマとパンチェン・ラマ』（ランダムハウス講談社、2006）

もう一度検索