キッド (DD-661)

アメリカ海軍駆逐艦「キッド(DD-661)」：太平洋の海賊と呼ばれた英雄

「キッド(USS Kidd, DD-661)」は、第二次世界大戦中に活躍したアメリカ海軍のフレッチャー級駆逐艦です。その艦名は、真珠湾攻撃で戦死したアイザック・キッド少将に由来します。勇猛果敢な戦いぶりから「太平洋の海賊」という異名を持ち、現在はルイジアナ州バトンルージュで博物館船として保存され、アメリカ合衆国国家歴史登録財およびアメリカ合衆国国定歴史建造物に指定されています。

海賊旗を掲げた異色の駆逐艦

1943年4月23日に就役した「キッド」は、その処女航海で早くも異彩を放ちました。ニューヨーク港を横断する際、前部マストに海賊旗（ジョリー・ロジャー）を掲げたのです。この大胆な行動はタイム誌に取り上げられ、乗組員たちはキャプテン・キッドをマスコットにすることを決定。地元の漫画家に依頼して、前部煙突に海賊のイラストを描かせました。

この際、乗組員たちはキッド少将の未亡人に許可を求めましたが、彼女は快く承諾。それどころか、アメリカ海軍に働きかけ、「キッド」が公式に海賊旗を掲揚することを認めさせたのです。「キッド」は、アメリカ海軍で唯一、公式に海賊旗の掲揚を認められた艦となりました。この伝統は、後に艦名を継いだキッド級ミサイル駆逐艦やアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦にも受け継がれています。

第二次世界大戦での活躍

「キッド」は、太平洋戦争において数々の激戦に参加しました。ウェーク島攻撃、ラバウル攻撃、タラワ環礁攻略戦、マーシャル諸島攻撃、サイパン攻撃、グアム島攻撃など、常に最前線で戦い抜き、その勇名を轟かせました。

特に、ラバウル攻撃では、空母「エセックス」所属機の搭乗員救助中に日本軍機の奇襲を受けましたが、果敢に応戦。九九式艦爆1機、九七式艦攻2機を撃墜する戦果を挙げました。また、タラワ環礁攻略戦では、一式陸攻2機を撃墜し、空母「インディペンデンス」の護衛任務を全うしました。

沖縄戦での損傷と終戦

1945年4月11日、「キッド」は沖縄戦に参加中、レーダーピケット艦として行動中に日本軍の零戦の特攻を受けました。零戦は右舷艦橋下に命中し、艦体を貫通した爆弾が左舷で爆発。この攻撃により、「キッド」は航行不能となり、死者38名、負傷者56名という甚大な被害を受けました。

しかし、「キッド」の乗組員たちは不屈の精神で損傷と戦い、応急修理を行いながらウルシー環礁への帰還を果たしました。その後、アメリカ本土で本格的な修理を受け、終戦直前の1945年8月1日に真珠湾へ帰還しました。

朝鮮戦争と冷戦

第二次世界大戦後、「キッド」は一旦退役しましたが、朝鮮戦争の勃発により1951年に再就役しました。朝鮮半島東岸での哨戒任務、艦砲射撃、台湾海峡の哨戒、対潜演習など、多岐にわたる任務に従事し、再びその存在感を示しました。

その後、「キッド」は冷戦時代も西太平洋を中心に活動し、スエズ危機や金門砲戦などの紛争にも対応しました。1962年に再び退役し、大西洋予備役艦隊に編入されました。

博物館船としての保存

長年にわたり保管されていた「キッド」は、1975年に海軍艦艇名簿から除籍されましたが、その功績を後世に伝えるため、博物館船として保存されることが決定しました。姉妹艦からの部品移植や復元作業を経て、1982年にルイジアナ州バトンルージュに到着。翌1983年より一般公開が開始されました。

現在、「キッド」は第二次世界大戦時の姿をほぼそのままに留めており、往時のメジャー22迷彩や煙突の海賊の絵、海賊旗掲揚も忠実に再現されています。年間を通して多くの観光客が訪れ、その歴史と勇姿に触れています。

栄光の証

「キッド」は、第二次世界大戦の戦功で4個、朝鮮戦争の戦功で4個の従軍星章を受章しました。また、数々の勲章を授与され、その輝かしい戦歴を讃えられています。

アジア・太平洋戦役勲章 … 星章8個付き
第二次世界大戦戦勝記念章
中国軍務勲章
国土防衛従軍章 … 星章1個付き
* 朝鮮軍務勲章 … 星章4個付き

「キッド」は、アメリカ海軍の歴史における重要な一部であり、その勇姿は今もなお多くの人々に感動を与え続けています。

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