キャデラック・セビル

キャデラックセビル（SEVILLE）

セビルは、アメリカの自動車メーカー、ゼネラルモーターズ（GM）が製造し、同社の高級車部門であるキャデラックブランドから販売されていた自動車です。その名称は、スペイン南部の美しい都市「セビリア（Sevilla）」に由来しています。キャデラックにおける「セビル」の名称は、1957年に登場したエルドラドのクーペモデルに冠されたのが最初とされています。

登場の背景

セビルが登場したのは、1970年代前半に世界を襲ったオイルショックが契機となり、アメリカ市場で大型車に対する逆風が吹き荒れていた時代です。燃費への意識が高まり、それまでのアメリカ車の特徴であった「大きく、燃費が悪い」というスタイルからの脱却が求められました。同時に、メルセデス・ベンツSクラスやBMW 7シリーズといった、アメリカ製高級車に比べて車体がコンパクトでありながら高い評価を得ていたヨーロッパ製高級車の存在感を無視できなくなっていました。こうした市場の変化に対応し、車体の小型化と燃費効率の向上を図りつつ、欧州の競合モデルに対抗できる新たな高級車として、セビルは開発されました。

初代（1975-1980年）

1975年4月に発売が開始された初代セビルは、当時のキャデラックとしては最も小さなボディサイズを持っていました。開発当初はドイツ・オペルのフラッグシップモデルであるオペル・ディプロマットをベースにする計画でしたが、ディプロマットの製造精度が高すぎて、アメリカのGM工場が持つ既存設備での生産が困難であることが判明。急遽、シボレー・ノヴァのプラットフォームをベースに開発が進められました。

サイズこそ小さくなりましたが、内容は当時のキャデラックのフラッグシップサルーンであるフリートウッド・ブロアムに匹敵する豪華な内外装を備えていました。さらに、アメリカ車として初めて電子制御燃料噴射システムを採用するなど、技術的な先進性も持ち合わせていました。価格設定は、75リムジンを除けばキャデラックのラインナップで最も高価であり、これは「ダウンサイジングされながらも最上級のパーソナルカー」というセビルのコンセプトを明確に示すものでした。

1978年には、燃費対策としてディーゼルエンジン搭載モデルが追加されたほか、ツートーンカラーと特別な内装を持つ上級グレード「エレガンテ」が登場。セビルは、開発意図通りの成功を収め、好調な販売実績を維持しながら2代目にバトンを渡しました。ライバルメーカーであるリンカーンがセビルに対抗して投入した「ヴェルサイユ」が、姉妹ブランドとの差別化に苦戦し販売が低迷したのとは対照的な結果となりました。

2代目（1980-1985年）

成功作となった初代の後継として、1979年9月に1980年モデルとしてデビューした2代目セビルは、駆動方式がこれまでの後輪駆動から前輪駆動へと大きく変更されました。デザイン面では、キャデラックのデザイン責任者だったビル・ミッチェル氏の好みを反映し、第二次世界大戦前後期のイギリス製大型高級車を思わせる、一段下がった独特のリアエンドデザインが採用されました。この特徴的なスタイルは、リムジンへの改造ベースとしても人気を博しました。

燃費効率の追求はさらに進み、初代に引き続きディーゼルエンジンが設定されたほか、当時のアメリカ政府が推進していた企業平均燃費規制（CAFE）に対応するため、V8エンジンの気筒休止システムなども導入されました。装備面でも、4輪独立サスペンション、4輪ディスクブレーキ、車載コンピューターによる情報ディスプレイなど、先進的な技術が多数採用され、キャデラックブランドの技術的イメージリーダーとしての役割も担いました。上級グレード「エレガンテ」も引き続き設定され、価格帯は初代同様、キャデラック内では高価格帯に位置付けられていましたが、個性的なデザインながら良好な販売成績を記録しました。

3代目、4代目（1986-1996年）

セビルはその後もモデルチェンジを重ね、3代目（1986-1991年）と4代目（1992-1996年）が登場しました。

5代目（1997-2004年）

1997年12月にはフルモデルチェンジを受け、1998年モデルとして登場した5代目セビルは、エンジンは先代から改良されたノーススターV8 4.6Lエンジンが搭載されました。デザインは、プロジェクター式ヘッドライトを採用するなど、よりグローバル市場、特にヨーロッパ市場を意識した洗練されたスタイルへと変化しました。グレード構成は「STS」、「SLS-E」、「SLS」の3種類があり、STSは高出力な味付け、SLS系はより実用域でのトルクを重視したセッティングが施されていました。

この5代目モデルでは、キャデラックとして初めて左側通行市場向けの右ハンドル仕様が設定されました。特に日本市場向けには、単にステアリング位置を移すだけでなく、以下のような細やかな配慮がなされていました。

バンパーデザインの変更により、全長を日本の立体駐車場に対応しやすい5m以内に収めました。
ペダル配置やシート位置、そしてワイパーやウインカーなどのスイッチ類配置（日本車と同様の左右反転）が日本人向けに再調整されました。
センターコンソールのディスプレイが日本語（カタカナ）表示に対応しました。
価格設定も、トヨタ・セルシオや日産・シーマといった国内の競合高級車を強く意識したものとなりました（例：STS 599万円など）。

年次改良も頻繁に行われ、1999年モデルではSLSグレードの輸入終了に伴いSLS-EがSLSに名称変更、本革シートやリアパーキングアシストが標準装備化されました。2001年モデルでは燃料がプレミアム指定からレギュラー対応となり、HIDヘッドライトやヘッドライトウォッシャーが装備されました。2003年モデルではSLSグレードが廃止されSTS単独ラインナップとなり、アルミホイールの17インチ化や純正ナビゲーションシステムが標準装備されるなど、装備の充実が進められました。

しかし、2004年2月に登場した2004年モデルをもってセビルの生産は終了。右ハンドル仕様もこのモデルで廃止されました。セビルの後継モデルとしては、名称も新たにキャデラックSTSが登場しました。

日本でのCM展開

日本市場においては、かつてテレビCMが積極的に展開され、桑田佳祐氏（シンガーソングライター）や青木功氏（プロゴルファー）、フレッド・カプルス氏（プロゴルファー）、リー・トレビノ氏（プロゴルファー）といった著名人が出演しました。CMソングには、サザンオールスターズの楽曲「胸いっぱいの愛と情熱をあなたへ」が使用されたことでも知られています。

キャデラックセビルは、時代の要請に応じた車体サイズの最適化、先進技術の導入、そしてヨーロッパ車をも意識したグローバルな視点を持つに至ったキャデラックの歴史を象徴するモデルの一つと言えるでしょう。

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