キング・カル
ロバート・E・ハワードが生み出したヒロイック・ファンタジーの世界に登場する、剣と魔法の時代を代表する英雄の一人、それがキング・カルです。
彼は同じくハワードが生んだ英雄コナンやソロモン・ケーン、ブラン・マク・モーンなどと並び称され、「アトランティスのカル」「征服者カル」といった別名でも知られています。
カルの物語は、1929年8月に発行されたパルプ誌「ウィアード・テイルズ」に掲載された短編『影の王国』で初めて世に出ました。その後、1997年にはケビン・ソーボ主演で『ザ・コンクエスト～征服大王カル』として映画化もされています。
カルは、紀元前20,000年頃、やがて大異変で海に沈むことになるアトランティス群島で生を受けました。当時のアトランティスは、まだ未開の蛮人たちが支配する土地でした。アトランティスの東に広がる広大なテューリア大陸は、コモリア、グロンダー、カメリア、テューレ、ヴァレリアといった王国に分かれており、その中で最も強大な力を持っていたのがヴァルーシア王国です。さらにテューリアの東には、ムー大陸の残骸とされるレムリアの島々が存在しました。
カルはアトランティスのタイガー・ヴァレーに暮らす氏族の一員として生まれましたが、まだ幼い頃に故郷と家族を洪水で失い、孤独な自然児として生き延びました。その後、海－山族に捕らえられ、一員として迎え入れられますが、やがてアトランティスから追放される運命を辿ります。
テューリア大陸を目指す途中でレムリア人に捕らえられたカルは、2年もの間、反抗的な奴隷としてガレー船の船底に繋がれるという過酷な日々を送ります。しかし、彼は自由を奪還し、青年期後半を海賊として過ごします。その卓越した戦闘技術と圧倒的な勇気によって、自らの海賊船の船長にまで上り詰め、アトランティスからテューリア全域にかけて恐れられる存在となります。
ヴァルーシア沖での海戦に敗れて船を失った後、彼は陸に上がりヴァルーシアでアウトローとして活動しますが、すぐに捕らえられてヴァルーシアの地下牢に収監されます。そこで奴隷となるか剣闘士となるかの選択を迫られ、彼はためらうことなく後者を選びます。剣闘士となったカルは、その類まれなる腕前で大きな名声を得て、多くの人々の支持を受けて再び自由の身となります。
自由を得たカルは、ヴァルーシア王立軍に傭兵として加わり、軍内部で急速に昇進していきます。30代になった頃、「黄金髑髏の呪詛」事件において、ヴァルーシアのボルナ王に雇われ、レムリアの野心的な魔導師ロタスと戦うことになります。この一件でカルは暗殺者としての確かな腕を証明し、ボルナ王からの信頼をさらに厚くします。
しかし、残酷で専制的なボルナ王の命令の中には、カルにとって受け入れがたいものが多くありました。やがて両者の関係は決定的に悪化し、周囲を巻き込んだ対立は内戦へと発展します。かつて奴隷であったカルには多くの傭兵団が味方し、ついにボルナ王を討ち取ったカルがヴァルーシアの王座に就くこととなります。
初登場作品である『影の王国』は、カルが王位に就いてからわずか半年後に直面する、最初の王位転覆の陰謀を描いています。シリーズを通してカルは「王冠を得ることは簡単だが、それを維持することは難しい」と常に感じています。廷臣たちは絶えず陰謀を巡らせ、カルの王座と生命は常に危険に晒されています。年齢を重ねた王は、自らが王冠とともに、頭上にダモクレスの剣をも受け継いだことを深く自覚していきます。
「ツザン・トゥーンの鏡」に描かれるカルは、人生の中盤、40代を迎えており、かつての荒々しい蛮人から一転して、より内省的で哲学的な人物へと変貌を遂げています。物語はここで終わっており、その後のカル王の運命は定かではありません。カルが支配したテューリア、レムリア、アトランティスといった世界は、彼の死後2～3世紀を経て大洪水によって沈没し、その約8千年後に、後の英雄コナンの時代が訪れることになります。
カルの物語には、彼の人生を彩る幾人かの重要なキャラクターが登場します。
ブルー（Brule the Spear-slayer）: カルが最も信頼を置くピクト人の戦士であり、親友でもあります。
トゥ（Tu）: ヴァルーシアの法律や慣習に深く精通した法官。
カ・ヌ（Ka-Nu）: ピクト人の大使であり、賢者として知られています。
トゥルサ・ドゥーム（Thulsa Doom）: カルにとって最大の宿敵である、恐るべき魔導師。
カルの物語は、パルプ誌を飛び出し、コミックの世界でも展開されました。1971年から1985年にかけて、マーベル・コミックから3つのシリーズが刊行され、同じくマーベルが手掛けた人気シリーズ「サヴェッジ・ソード・オブ・コナン」にも何度かゲストキャラクターとして登場しています。さらに、1995年にはグラフィックノベル「The Vale of Shadow」も発表されています。
男児向け玩具を原作とし、映画化もされた人気キャラクター「ヒイ＝マン」は、実は当初、ロバート・E・ハワードの創造した英雄コナンをモデルにして企画されました。しかし、法的な問題や、当時の映画版コナンが成人向けの内容だったことから、子ども向けの新たなキャラクターとして造形が変更されたという経緯があります。カルがコナンの時代の前に存在した英雄とされたように、ヒイ＝マンにもまた、彼の前身にあたる存在としてヒィ＝ロー（He-Ro）、別名グレイスカル王というキャラクターが設定されています。ヒィ＝ローもまたカル王と同様に蛇人間（snakemen）と戦ったとされており、彼の名が象徴的な場所であるグレイスカル城の名前の由来となっています。
『影の王国』 (The Shadow Kingdom, 「ウィアード・テイルズ」1929年8月)
『ウィアード・テールズ (2)』（国書刊行会、1984年、三崎沖元訳）に収録
『失われた者たちの谷』（ナイトランド叢書、2015年、中村融訳）に収録
『ツザン・トゥーンの鏡』 (The Mirror of Tuzun Thune, 「ウィアード・テイルズ」1929年9月)
SFマガジン（1971年10月増刊号）に掲載
『闇の帝王』 (Kings of the Night, 「ウィアード・テイルズ」1930年11月)
* 幻想文学 No.19「ヒロイック・ファンタジー」（1987年7月）に掲載
彼は同じくハワードが生んだ英雄コナンやソロモン・ケーン、ブラン・マク・モーンなどと並び称され、「アトランティスのカル」「征服者カル」といった別名でも知られています。
カルの物語は、1929年8月に発行されたパルプ誌「ウィアード・テイルズ」に掲載された短編『影の王国』で初めて世に出ました。その後、1997年にはケビン・ソーボ主演で『ザ・コンクエスト～征服大王カル』として映画化もされています。
波乱に満ちた生涯
カルは、紀元前20,000年頃、やがて大異変で海に沈むことになるアトランティス群島で生を受けました。当時のアトランティスは、まだ未開の蛮人たちが支配する土地でした。アトランティスの東に広がる広大なテューリア大陸は、コモリア、グロンダー、カメリア、テューレ、ヴァレリアといった王国に分かれており、その中で最も強大な力を持っていたのがヴァルーシア王国です。さらにテューリアの東には、ムー大陸の残骸とされるレムリアの島々が存在しました。
カルはアトランティスのタイガー・ヴァレーに暮らす氏族の一員として生まれましたが、まだ幼い頃に故郷と家族を洪水で失い、孤独な自然児として生き延びました。その後、海－山族に捕らえられ、一員として迎え入れられますが、やがてアトランティスから追放される運命を辿ります。
テューリア大陸を目指す途中でレムリア人に捕らえられたカルは、2年もの間、反抗的な奴隷としてガレー船の船底に繋がれるという過酷な日々を送ります。しかし、彼は自由を奪還し、青年期後半を海賊として過ごします。その卓越した戦闘技術と圧倒的な勇気によって、自らの海賊船の船長にまで上り詰め、アトランティスからテューリア全域にかけて恐れられる存在となります。
ヴァルーシア沖での海戦に敗れて船を失った後、彼は陸に上がりヴァルーシアでアウトローとして活動しますが、すぐに捕らえられてヴァルーシアの地下牢に収監されます。そこで奴隷となるか剣闘士となるかの選択を迫られ、彼はためらうことなく後者を選びます。剣闘士となったカルは、その類まれなる腕前で大きな名声を得て、多くの人々の支持を受けて再び自由の身となります。
王座へ、そして苦悩
自由を得たカルは、ヴァルーシア王立軍に傭兵として加わり、軍内部で急速に昇進していきます。30代になった頃、「黄金髑髏の呪詛」事件において、ヴァルーシアのボルナ王に雇われ、レムリアの野心的な魔導師ロタスと戦うことになります。この一件でカルは暗殺者としての確かな腕を証明し、ボルナ王からの信頼をさらに厚くします。
しかし、残酷で専制的なボルナ王の命令の中には、カルにとって受け入れがたいものが多くありました。やがて両者の関係は決定的に悪化し、周囲を巻き込んだ対立は内戦へと発展します。かつて奴隷であったカルには多くの傭兵団が味方し、ついにボルナ王を討ち取ったカルがヴァルーシアの王座に就くこととなります。
初登場作品である『影の王国』は、カルが王位に就いてからわずか半年後に直面する、最初の王位転覆の陰謀を描いています。シリーズを通してカルは「王冠を得ることは簡単だが、それを維持することは難しい」と常に感じています。廷臣たちは絶えず陰謀を巡らせ、カルの王座と生命は常に危険に晒されています。年齢を重ねた王は、自らが王冠とともに、頭上にダモクレスの剣をも受け継いだことを深く自覚していきます。
「ツザン・トゥーンの鏡」に描かれるカルは、人生の中盤、40代を迎えており、かつての荒々しい蛮人から一転して、より内省的で哲学的な人物へと変貌を遂げています。物語はここで終わっており、その後のカル王の運命は定かではありません。カルが支配したテューリア、レムリア、アトランティスといった世界は、彼の死後2～3世紀を経て大洪水によって沈没し、その約8千年後に、後の英雄コナンの時代が訪れることになります。
主な登場人物
カルの物語には、彼の人生を彩る幾人かの重要なキャラクターが登場します。
ブルー（Brule the Spear-slayer）: カルが最も信頼を置くピクト人の戦士であり、親友でもあります。
トゥ（Tu）: ヴァルーシアの法律や慣習に深く精通した法官。
カ・ヌ（Ka-Nu）: ピクト人の大使であり、賢者として知られています。
トゥルサ・ドゥーム（Thulsa Doom）: カルにとって最大の宿敵である、恐るべき魔導師。
メディア展開
カルの物語は、パルプ誌を飛び出し、コミックの世界でも展開されました。1971年から1985年にかけて、マーベル・コミックから3つのシリーズが刊行され、同じくマーベルが手掛けた人気シリーズ「サヴェッジ・ソード・オブ・コナン」にも何度かゲストキャラクターとして登場しています。さらに、1995年にはグラフィックノベル「The Vale of Shadow」も発表されています。
関連キャラクター：ヒイ＝マン
男児向け玩具を原作とし、映画化もされた人気キャラクター「ヒイ＝マン」は、実は当初、ロバート・E・ハワードの創造した英雄コナンをモデルにして企画されました。しかし、法的な問題や、当時の映画版コナンが成人向けの内容だったことから、子ども向けの新たなキャラクターとして造形が変更されたという経緯があります。カルがコナンの時代の前に存在した英雄とされたように、ヒイ＝マンにもまた、彼の前身にあたる存在としてヒィ＝ロー（He-Ro）、別名グレイスカル王というキャラクターが設定されています。ヒィ＝ローもまたカル王と同様に蛇人間（snakemen）と戦ったとされており、彼の名が象徴的な場所であるグレイスカル城の名前の由来となっています。
日本語で読める作品リスト
『影の王国』 (The Shadow Kingdom, 「ウィアード・テイルズ」1929年8月)
『ウィアード・テールズ (2)』（国書刊行会、1984年、三崎沖元訳）に収録
『失われた者たちの谷』（ナイトランド叢書、2015年、中村融訳）に収録
『ツザン・トゥーンの鏡』 (The Mirror of Tuzun Thune, 「ウィアード・テイルズ」1929年9月)
SFマガジン（1971年10月増刊号）に掲載
『闇の帝王』 (Kings of the Night, 「ウィアード・テイルズ」1930年11月)
* 幻想文学 No.19「ヒロイック・ファンタジー」（1987年7月）に掲載
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