キング・ジョージ5世級戦艦

キング・ジョージ5世級戦艦：条約の制約と防御重視の設計

キング・ジョージ5世級戦艦は、第二次世界大戦前にイギリス海軍が建造した超弩級戦艦です。このクラスは、条約による制約下で主砲の口径が抑えられた一方で、防御力を重視した設計がなされたことが特徴です。政治的な背景から、主砲の口径は新戦艦の中で最も小さい14インチ砲となりました。当初予定されていた12門から10門に減らされたこともあり、火力面ではビスマルク級やヴィットリオ・ヴェネト級、リシュリュー級に劣りましたが、装甲は長門型よりも厚く、防御力は高められていました。しかし、その戦力はドイツやイタリアの主力艦を圧倒するものでした。

設計の背景

キング・ジョージ5世級は、イギリス海軍にとって実戦を経験した最後の戦艦クラスです。第二次ロンドン条約の締結を見越して、基準排水量35,000トン、主砲に14インチ砲を採用した新戦艦として設計されました。1928年から新型戦艦の構想が検討され始め、ロンドン海軍軍縮会議の影響で1935年に再検討が始まりました。当初、主砲には15インチ砲が選定されましたが、ロンドン条約の継続を求める政府の意向により、14インチ砲に変更されました。この決定は、1935年末までに主砲を発注する必要があったため、急遽行われました。

艦形

艦首は垂直に切り立った形状で、凌波性に課題がありました。前級と同様に、主砲塔を艦首方向へ仰角0度で射撃できるようにするため、艦首甲板上にシア（反り返り）はなく、冬の北大西洋では艦首で砕けた波浪が1番主砲塔だけでなく2番砲塔基部まで降り注ぎました。艦橋構造は、前級の塔型艦橋をベースに、クイーン・エリザベス級の近代化改装技術を応用した一体型の塔型艦橋となりました。艦橋は操舵艦橋、上部艦橋、将官艦橋の順に構成され、頂上部には主砲用測距儀と副砲用測距儀が配置されました。艦橋の背後には、前向きの三脚式マストがあり、2本の煙突は機関のシフト配置により前後に離れていました。煙突間にはカタパルトが設けられ、水上機を左右どちらにも射出できました。船体後部には後部艦橋と三脚式マストがありました。消磁コイルは後に艦内方式に改められました。

武装

主砲

キング・ジョージ5世級の主砲には、条約に基づき新設計された「1922年型 Mark 7 35.6cm（45口径）砲」が採用されました。特徴的なのは、四連装砲塔2基と連装砲塔1基を混載している点です。本来は四連装砲塔3基の予定でしたが、弾薬庫の防御強化のために砲塔が1つ減らされました。この砲は最大仰角40度で射程35,260mを発揮し、射程16,460mで垂直装甲305mmを貫通する能力がありました。砲塔の俯仰能力は仰角40度・俯角3度で、旋回角度は1番砲塔が左右143度、2番・3番砲塔が35度でした。発射速度は毎分2発程度です。砲塔は軽量化のため小型化され、内部構造は窮屈で、実戦では故障が頻発しました。主砲塔に搭載された測距儀は幅12.8mでしたが、艦橋トップの測距儀は小型で性能が低く、実用射程は約25,000mでした。主砲管制用方位盤は、照準視界がジャイロスコープで安定化される画期的なものでした。

副砲・対空装備等

副砲には、高角砲を兼用する「1940年型 13.3cm（50口径）高角砲」が採用されました。この砲は発射速度が毎分7～8発、最大射程は仰角45度で21,397m、最大仰角75度で高度14,935mに達しました。副砲は連装砲塔に収められ、前後に各2基、片舷4基ずつ計8基が配置されましたが、実際の旋回速度や砲身の上下速度は平射用と大差なく、急降下爆撃機への対処は困難でした。装填は人力で、砲弾重量は36.3kgもあり、速射性を阻害していました。また、HACS対空レーダーは旧式で性能が劣っていました。近接対空火器として、「1930年型 Mark VIII 4cm（39口径）ポンポン砲」を8連装で4基搭載しましたが、有効射程が短く、頻繁に故障を起こしました。特徴的な兵器として「17.8cm20連装ロケット砲（UP）」も搭載されましたが、十分な戦果を上げられず、後に撤去されました。その後、ボフォース4cm対空機関砲やエリコン2cm機銃が追加されました。

機関

機関には、クイーン・エリザベスや巡洋戦艦レナウンの近代化改装で実績のある海軍式三胴型加熱器付き重油専焼水管缶とパーソンズ式オール・ギヤードタービンが採用されました。ボイラー8基とギヤード・タービン4基を搭載し、4軸推進としました。機関配置はシフト配置で、タービン室とボイラー室が交互に配置され、煙突は2本になりました。カタログデータでは110,000馬力で速力28ノットを発揮できましたが、ビスマルク追撃時のプリンス・オブ・ウェールズは128,000馬力から134,000馬力を発揮したとされます。航続性能は10ノットで7,000海里程度でした。

防御

キング・ジョージ5世級の装甲は、水平甲板が弾薬庫上面部152mm、機関区上面部127mm、垂直防御が機関区356mm、弾薬庫381mm、主砲塔前盾が324mmでした。同世代の列強戦艦と比較して装甲厚に優れていました。外装式装甲を船体形状に沿って装着しており、弾薬庫部の舷側装甲は最大12度まで傾斜していました。バイタルパート全域に十分な厚さと面積の装甲を配置していましたが、水中防御は不十分で、51mmの防御壁が3層構造でした。舷側から機関区隔壁までの区画長は4.3mと短く、これは機関の小型軽量化に失敗したためです。バルジは装着されていませんでした。水線防御装甲は水線下深くまで施されているものの、艦底部までは達していませんでした。

航空兵装

イギリスでは、レーダーの発達と空母搭載機の威力増大を背景に戦艦の航空兵装は否定的な見方が強く、1943年前後には水上偵察機を陸揚げしました。

「戦艦のようなもの」という俗説

ウィンストン・チャーチルがキング・ジョージ5世級を揶揄して「我々は戦艦のようなもので第二次世界大戦を戦った」と述べたという俗説が日本では広まっていますが、翻訳家の橋本若路氏の調査によると、この発言は英文の文献には見当たらず、誤情報である可能性が高いとされています。

同型艦

（同型艦の情報は省略）

参考資料

（参考資料リストは省略）

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