ギンブナ

ギンブナ (Carassius langsdorfii)

分布

ギンブナは、日本、台湾、朝鮮半島、中国といった東アジアに広く分布しています。近年では、ヨーロッパや北アメリカ、イランなど、世界の様々な地域にも導入されており、その生息範囲を広げています。これらの地域への導入は、観賞用のキンギョやニシキゴイの輸入に紛れて侵入した可能性が指摘されています。主に池や沼、河川の下流域など、流れの緩やかな場所に生息しています。

形態

体高は、同じフナの仲間であるゲンゴロウブナよりも低く、キンブナよりも高いのが特徴です。体色は緑褐色をしています。孵化後1～2年で体長8～10cm程度に成長し性成熟を迎えます。成魚は15～20cm程度の個体が多いですが、最大で30cmにまで成長することもあります。

生態

ギンブナは、止水域や流れの緩やかな河川の低層で活動します。雑食性で、動物プランクトン、付着藻類、底生動物などを食べます。特にユスリカの幼虫やイトミミズ、ゴカイなどの底生生物、小型の水生節足動物を好んで食べます。これは、植物プランクトンを主食とするゲンゴロウブナに比べて肉食性が強いことを示しています。そのため、濾過摂食に使われる鰓耙の数はゲンゴロウブナの半分程度です。

繁殖

繁殖期は春から初夏にかけてで、浅瀬の水草や枯れ枝などに粘着性の卵を産み付けます。ギンブナの特筆すべき点は、その繁殖方法です。多くの個体がメスであり、雌性発生と呼ばれる特殊な無性生殖を行います。この繁殖方法では、メスがクローンの子を作りますが、発生のきっかけとしてオス（キンブナなどの他のフナ）の精子が必要になります。しかし、この精子は遺伝的な貢献はせず、あくまで発生のスイッチの役割を担うのみです。ギンブナは三倍体であることが多く、染色体数は150本程度です。これは、有性生殖を行うフナ類の100本に比べて1.5倍多いです。また、稀に四倍体も存在します。

倍数体ギンブナの起源

遺伝子調査により、日本の三倍体ギンブナは、日本の二倍体フナとユーラシアのフナの交雑によって生まれたことが明らかになっています。また、三倍体のギンブナは、同所的に生息する二倍体フナと稀に交雑することで、その遺伝子を取り込んでいることも判明しています。さらに、稀に二倍体フナの精子によって四倍体のギンブナが誕生することがあり、この四倍体ギンブナのオスと二倍体フナのメスが交配することで、再び三倍体のギンブナが生じ、雌性発生を繰り返すと考えられています。

共存の不思議

ギンブナのようにメスだけで繁殖する無性生殖の生物は、オスを作る必要がないため、増殖率が高いと考えられます。しかし、雌性発生を行うためには、有性生殖を行うフナのオスの助けが必要となるため、理論的には両者は共存できないはずです。しかし、実際には日本各地でギンブナと有性生殖を行うフナが共存しているという不思議な現象が確認されています。この理由はまだ完全には解明されていません。

利用

かつては重要な食用淡水魚でしたが、近年では食用にされることは少なくなっています。しかし、秋田県八郎潟周辺では「冬の味」として親しまれています。その他、千葉県の利根川流域や滋賀県の琵琶湖周辺も産地として知られています。長野県上田市周辺では、養殖も行われており、生きたまま出荷されています。

調理法

主な調理法は、塩焼き、甘露煮、吸い物、刺身などです。ただし、有棘顎口虫の中間宿主となるため、生食は避けるべきです。また、愛知県や岐阜県周辺では、フナを赤味噌で煮込んだ「鮒味噌」という郷土料理があります。岡山県には、フナの身を野菜と煮てご飯にかける「鮒飯」という料理があります。香川県では、フナの酢漬けを野菜と和えた「鮒のてっぱい」という料理があります。滋賀県の鮒寿司はニゴロブナが本来の材料ですが、ギンブナが代用されることもあります。

釣り

ギンブナ釣りは、釣りの入門として親しまれています。餌はミミズ、赤虫、練り餌、ゴカイ、サバ虫、パンなど様々なものが用いられます。

参考文献

箱山　洋; フナの有性・無性集団の共存; 魚類の社会行動2; 海游舎; ISBN 4-905930-78-2 (2003).

関連項目

魚の一覧
コイ目
コイ科
フナ

外部リンク

ギンブナの単為生殖について
* ギンブナの３D/CTスキャンモデル：モデル１｜モデル２（アジア淡水魚・淡水生物データベース ）

もう一度検索