キン族(ベト族)について
キン族(キンぞく、京族とも)は、
ベトナムの主要民族であり、
ベトナム語では Người Kinh または Người Việt と呼ばれます。一般的に
ベトナム人として認識されるのは、このキン族を指すことが多いです。
居住地域
キン族は
ベトナム国内に広く分布していますが、周辺国である中国、ラオス、カンボジア、タイにも
少数民族として居住しています。中国では京族(
ジン族)と呼ばれ、主に
広西チワン族自治区に住んでいます。また、
ベトナム戦争の影響で、アメリカ、
香港、
オーストラリアなどへ移住した人々も多く、特に
オーストラリアでは
ベトナム系住民が社会基盤を築いています。
近年では、
出稼ぎ労働者や国際結婚により、
台湾などへの移住も増加しており、「越南勞工(
ベトナム労働者)」、「越南新娘(
ベトナム花嫁)」と呼ばれることもあります。日本国内においても、2010年代以降、
ベトナム国籍を持つ人の数が急増しており、2023年には56万人以上が合法的に滞在しています。これは、日本に滞在する外国人の中で、韓国籍の人々を上回り、中国籍の人々に次いで2番目に多い数です。
歴史
キン族の起源は中国南部に遡ると考えられていますが、詳細は不明です。
オーストロアジア語族のモン族との関連性も指摘されています。
紀元前には、現在の
ベトナム北部に当たる地域で勢力を拡大し、ドンソン文化という
青銅器文化を発達させ、小規模な
国家群を形成しました。これがキン族の直接の祖先である古越人です。この地域は、
秦の時代以降、1000年以上にわたり中国の支配下に置かれたため、他の
東南アジアの民族とは異なり、
インド文明の影響をほとんど受けず、
漢字の使用や中国風の姓を持つなど、中国文明を広く受け入れました。
しかし、キン族は中国に完全に同化することなく、一定の独立性を維持し、しばしば中国中央政府に対して反乱を起こしました。この時期の勢力の中には、現在の
ベトナムの歴史教育において、独立王朝として扱われるものもあります。一方、現在の
ベトナム中部から南部にかけての地域では、
オーストロネシア語族の古チャム人が
チャンパ王国を形成していました。
唐の末期に中国の支配が弱まると、
938年にキン族による最初の王朝とされる
呉朝が成立しました。その後、丁朝が続き、
ベトナムの歴史書では、この丁朝以降を正式な
ベトナム王朝として扱っています。これらの王朝は、周辺の
少数民族を従えながら南進し、
チャンパ王国としばしば争い、
17世紀には
黎朝が現在の
ベトナム領土をほぼ確定させました。
その後、
1887年に
フランス領
インドシナが成立し、
ベトナムは
フランスの植民地となりました。
1940年には、日本の
仏印進駐によって二重支配下に置かれましたが、その後独立を達成し、
ベトナム戦争、
中越戦争を経て現在に至ります。
文化
ベトナムは
インドシナ半島に位置していますが、キン族が居住する
ベトナム北部は中国に近い地域であるため、中国文明の影響を強く受けています。そのため、中国に類似する文化要素が多く見られます。例えば、中国風の名前を持ち、
漢字や
漢文を文字・文章として使用していました。
ベトナムという名称も、「越南」という
漢字の
ベトナム語読み(漢越読み)に由来します。
かつては、
ベトナム語を表記するために
チュノムと呼ばれる独自の文字を使っていましたが、現在では、
フランス人宣教師によって考案された
ラテン文字をベースにしたクォック・グー(国語)が使用されており、
漢字や
チュノムは
冠婚葬祭などの限られた場面でしか使われなくなりました。
宗教
キン族は民族として統一された宗教を持っていませんが、
仏教、
道教、
儒教に加え、
フランス植民地時代に伝えられたキリスト教(主にカトリック)が信仰されています。少数ながら、
チャム族などの
少数民族との交流を通して、イスラム教を信仰する人々もいます。その他、田畑や道の辻に祠を置き、線香をあげる土着信仰も根強く残っています。
新宗教としては、
儒教、
道教、
仏教、キリスト教、イスラム教などを混淆させた
カオダイ教や、
仏教系の
ホアハオ教が盛んです。
脚注
ベトナムの歴史
ベトナムの人名
アラブ級駆逐艦 - 一隻が「アンナミト」すなわち「アンナン人」と名付けられる。なお、これは正確には民族のことではなく、「
フランス領
インドシナに住む人」を指す。
関連項目
ベトナムの歴史
ベトナムの人名
* アラブ級駆逐艦