ギュンター・パッシン

ギュンター・パッシン（Günther Passin）は、1937年5月20日にドイツのライプツィヒで生まれ、2014年3月18日に世を去った、国際的に高名なオーボエ奏者・教育者です。ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団元首席フルート奏者のカール＝ハインツ・パッシンは実弟にあたります。パッシンは、優れたオーケストラ奏者であると共に、多くの後進を育て上げ、国際的なオーボエ界に貢献しました。

幼少期より音楽に親しみ、1951年からはザクセン州トールガウの音楽中等教育学校でオーボエ等を専門的に学び始めます。1954年にライプツィヒ音楽大学に進学し、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団首席オーボエ奏者だったヴィリー・ゲルラッハに師事しました。1957年にケムニッツ市立歌劇場オーケストラでプロフェッショナルなキャリアを開始しますが、当時の東西ドイツ間の緊張を受け、西ドイツへの亡命を決断します。西ドイツでは、1960年から1962年にかけてデトモルトの北西ドイツ音楽アカデミーでヘルムート・ヴィンシャーマンの薫陶を受け、ケルン室内管弦楽団での演奏活動も継続しました。

1962年、ベルリン放送交響楽団（後のベルリン・ドイツ交響楽団）にソロ・オーボエ奏者として入団。ロリン・マゼール、リッカルド・シャイー、ヴラディーミル・アシュケナージといった名指揮者のもと、数多くの演奏・録音に参加し、オーケストラの中核としてそのサウンドを支えました。また、1972年からはヘルムート・リリング率いるシュトゥットガルト・バッハ・コレギウムに参加し、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの宗教曲全曲録音という歴史的プロジェクトに主要メンバーとして貢献しました。1992年には、セルジュ・チェリビダッケ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団演奏会に客演するという貴重な経験もしています。1994年にベルリン・ドイツ交響楽団を退団しました。

パッシンの功績は、演奏活動と同等かそれ以上に、教育者としての側面にあります。1982年、彼はミュンヘン国立音楽大学大学院マイスターコースの教授に就任。ドイツ国内外から集まる才能ある若手オーボエ奏者を熱心に指導し、数多くの優れた奏者を育成しました。門下生はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のクリストフ・ハルトマン氏をはじめ、ドイツ主要オーケストラや、日本の主要オーケストラ（NHK交響楽団首席奏者の茂木大輔氏、読売日本交響楽団首席奏者の蠣崎耕三氏、新日本フィルハーモニー交響楽団首席奏者の古部賢一氏、名古屋フィルハーモニー交響楽団首席奏者の寺島陽介氏ら）で首席奏者として活躍するなど、世界の第一線で活躍する多くの名手を輩出しました。教育活動は大学での指導に留まらず、ドイツ、日本、中国、アメリカなど世界各地でマスタークラスを開催し、オーボエ教育の国際的な発展に尽力しました。1998年からはザルツブルク・モーツァルテウム大学でも客員教授を務めました。ミュンヘン国立音楽大学の教授職は後任のフランソワ・ルルーに引き継がれましたが、2002年以降はアウクスブルクの音楽大学で講師として指導にあたり、晩年にはアマチュアオーケストラの指揮も行うなど、幅広い教育・普及活動を展開しました。

録音としては、1968年にケルン室内管弦楽団と録音した18世紀オーボエ協奏曲集「Virtuose Oboenkonzerte」や、1987年にジャーマン・ウインド・ソロイスツの一員として参加したモーツァルト：セレナード第10番『グラン・パルティータ』などが、彼のクリアで表現力豊かなオーボエ演奏を今に伝えています。

ギュンター・パッシンは、激動の時代を生き抜いたオーボエ奏者、そして指導者として、後世に多大な遺産を残しました。その音楽と教育への情熱、そして彼が育てた多くの優れた奏者たちは、今も世界の音楽シーンで重要な役割を果たしています。2014年、病を得て惜しまれつつも世を去りましたが、その音楽への貢献は長く記憶されることでしょう。

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