クィントゥス・セルトリウス

クィントゥス・セルトリウス：反逆の英雄、その生涯とセルトリウス戦争

クィントゥス・セルトリウス（紀元前122年 - 紀元前73年）は、共和政ローマ末期の政務官であり、軍人です。特に、ヒスパニアで起こったセルトリウス戦争における主要人物として知られています。

生い立ちと初期のキャリア

セルトリウスは、サビニ人の都市ヌルシアで騎士階級の家に生まれました。法学と修辞学を学び、軍人としてのキャリアをスタートさせます。紀元前105年のアラウシオの戦い、紀元前102年のアクアエ・セクスティアエの戦いでは、ガリア人と勇敢に戦い、その名を高めました。キンブリ・テウトニ戦争やヒスパニアでの討伐戦では、現地の事情に通じた人物として活躍し、軍人としての頭角を現していきます。

マリウス派としての活動とスッラとの対立

護民官への立候補を試みますが、ルキウス・コルネリウス・スッラの一派に妨害されます。同盟市戦争やその後の内乱（内乱の一世紀）では、ガイウス・マリウスやルキウス・コルネリウス・キンナらの派閥に所属し、スッラと対立しました。しかし、紀元前87年のローマ占拠におけるマリウスの恐怖政治やスッラ派の粛清には反対しています。

紀元前83年には法務官（プラエトル）に就任しますが、スッラ軍がローマへ侵攻したため、属州総督としてヒスパニアへ赴任します。しかし、ヒスパニアでもスッラ派の討伐軍に追われ、紀元前81年にはアフリカのマウレタニアへと逃れました。

ヒスパニアでの反乱と支配

マウレタニアで王族の内紛に関与したことで勢力を拡大し、紀元前80年、ルシタニア人の招きに応じてヒスパニアへ帰還します。海軍力を背景に勢力を挽回すると、ヒスパニア先住民の要求を理解し、彼らの支持を得ることに成功しました。また、ローマ風の教育を施す学校を建設するなど、ローマ文化の普及にも努めました。これらの軍事的・政治的手腕と文化政策によって、紀元前80年から紀元前77年頃にはイベリア半島のほぼ全域を掌握します。

この間、キリキアの海賊やマウレタニア、そしてポントス王ミトリダテス6世とも連携し、ゲリラ戦術を駆使してスッラ派から派遣される将軍たちを次々と打ち破りました。さらに、スッラの独裁から逃れてきた民衆派のローマ人を受け入れ、対抗元老院を設立し、自身がローマの正当な政府を継承していると主張しました。セルトリウスの反乱は、単なる反乱ではなく、非合法なスッラ政権に対する正当な抵抗であるという立場を明確にしたのです。この主張は、反スッラ派やマリウス派から幅広い支持を得ることにつながりました。また、セルトリウスは常に白い小鹿を傍らに置き、自身が女神ディアーナの加護を受けていることを示し、人心掌握に利用したと伝えられています。

反乱の終焉と暗殺

約10年間、ヒスパニアを拠点にローマに対抗し続けたセルトリウスでしたが、紀元前76年、ローマから派遣されたクィントゥス・カエキリウス・メテッルス・ピウスに加え、グナエウス・ポンペイウスが指揮官として着任すると、徐々に劣勢に追い込まれます。紀元前74年には大敗を喫し、連敗が続いたことで求心力を失い、その振る舞いも残酷さを増していったと言われています。

そして紀元前73年、セルトリウスは、配下であり重要な支持者であったマルクス・ペルペルナ・ウェントによって暗殺されました。

セルトリウスの死後、反乱は急速に瓦解し、ポンペイウスの攻撃によって鎮圧されました。翌年にはヒスパニアは再びローマの支配下に戻りました。

この一連の戦いは、セルトリウス戦争（またはセルトリウスの反乱）と呼ばれています。

セルトリウスの遺産

セルトリウスの名は、現在でもスペイン各地にその痕跡を残しています。ウエスカ（当時の名称はオスカ）はセルトリウス軍の根拠地として、デニア（当時の名称はディアニウム）はセルトリウス軍の海軍基地として知られています。

セルトリウスは、ローマに対する反逆者としてだけでなく、ヒスパニアの先住民に寄り添い、独自の文化を尊重した英雄としても記憶されています。彼の生涯は、共和政ローマ末期の混乱と、その中で生きた人々の葛藤を鮮やかに映し出しています。

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