クォン・デ

クォン・デ（ベトナム語：Cường Để / 彊㭽）は、ベトナム阮朝の皇族であり、独立運動家としてその名を歴史に刻んでいます。初代皇帝嘉隆帝の末裔にあたり、阮朝の宗室として生まれました。

生い立ちと独立運動への目覚め

順化で誕生したクォン・デは、幼名を阮福民といいました。父の死後、畿外侯に封じられますが、当時のベトナムはフランスのインドシナ総督府による支配下にあり、疲弊していました。この状況に強い危機感を抱いたクォン・デは、潘佩珠らと共に抗仏組織「越南維新会」を設立し、会長に就任。ベトナムの独立運動に身を投じることになります。

日本への亡命と活動

独立への協力を求めて潘佩珠が日本へ密航した後、クォン・デも日本に渡りました。東京振武学校と早稲田大学で学びながら、日本の支援者たちと交流を深めました。しかし、日仏協約の成立により、上海へと渡り、その後もドイツやイギリスなどで活動を続けます。
1915年、クォン・デは再び日本を訪れ、犬養毅、柏原文太郎、松井石根らの庇護を受けました。新宿中村屋の相馬愛蔵・黒光夫妻の元に身を寄せ、玄洋社などの支援を受けながら、林徳雄や南一雄といった偽名を使い活動を続けました。また、1940年には日本軍による仏印進駐に協力しています。

晩年と帰国への願い

第二次世界大戦中、戦災で住居を失ったクォン・デは、慶応大学教授の橋本増吉宅に身を寄せました。その後、GHQに帰国を直訴しますが、1950年にバンコクへ向かう船に乗船したものの、タイ政府によって上陸を拒否され、帰国は叶いませんでした。

最期と遺骨

1951年、クォン・デは東京の病院で肝臓癌により69歳で亡くなりました。遺骨の一部は、彼を支えたカオダイ教指導者によってベトナムに渡り、大部分はフエに埋葬されました。残りは東京の雑司ヶ谷霊園に、東遊運動の同志である陳東風の墓に合葬されています。

家族

クォン・デには、美貌で知られた妻レ・ティ・チャンとの間に二人の息子がいましたが、ベトナムを離れてから二度と会うことはありませんでした。晩年を共に過ごした家政婦の安藤ちゑとの関係をめぐり、誤解が生じたこともありました。しかし、彼はベトナムの独立を最後まで願っていたのです。

クォン・デを題材にした作品

クォン・デの生涯は、小説や研究書など、様々な形で語り継がれています。

小松清『ヴェトナム』
犬養道子「北の南の人」
牧久『安南王国の夢:ベトナム独立を支援した日本人』
白石昌也『日本をめざしたベトナムの英雄と皇子: ファン・ボイ・チャウとクオン・デ』

参考書籍

森達也『クォン・デ - もう一人のラストエンペラー』
平間洋一『日露戦争が変えた世界史: 「サムライ」日本の一世紀』
* 高見茂『続吉備の国から: 地域への思いを込めて』

クォン・デは、激動の時代を生き抜いたベトナムの愛国者として、その名は今も語り継がれています。

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