クロアチアの歴史

クロアチアの地は、その地理的な位置から、常に様々な文化や勢力の交差点となってきました。本稿では、クロアチアの歴史を、先史時代から現代に至るまでを概観し、その複雑な変遷を辿ります。

バルカン半島との関係

クロアチアは、その帰属意識において、バルカン地域との間で複雑な感情を抱いてきました。「バルカン」という言葉が持つ政治的なニュアンスから、一部には否定的な見方もあります。しかし、歴史的にオスマン帝国とハプスブルク君主国という二つの大国の境界に位置したことが、その背景にあります。本稿では、クロアチアを「共通の歴史的体験」を重視する立場から、バルカン地域の一部として扱います。

先史時代

バルカン半島における人類の歴史は古く、前期旧石器時代に遡ります。クロアチアのシャンダリャ洞窟で発見された顎の骨は、アウストラロピテクスに属する最古の人類のものと考えられています。その後、ネアンデルタール人が現れ、ムスティエ文化が広まりました。新石器時代には、西アジアから農耕・牧畜が伝播し、アドリア海沿岸部ではインプレッソ土器文化が発達しました。

古代

古代ギリシャの時代、クロアチア周辺にはイリリア人が定住していました。紀元前4世紀にはアレクサンドロス大王に征服されますが、その死後、ローマが侵攻し、紀元前2世紀にはマケドニアが属州となります。ローマ支配下では、イリリア地方はローマとの文化的、経済的交流が活発となり、多くの軍人を輩出しました。

クロアチア人の定住

ローマ帝国が東西に分裂すると、クロアチアの地は東ローマ帝国（ビザンツ帝国）の支配下に入ります。6世紀後半には、アヴァール人やスラブ人が侵入し、クロアチア人らはパンノニア方面からボスニア地域へ進出しました。この移動によって、スラブ民族は東スラブ、西スラブ、南スラブに分かれたと考えられています。

キリスト教の受容

9世紀、キリスト教は正教会とカトリック教会が勢力争いを繰り広げていました。クロアチア人らは、カール大帝の侵攻時にフランク教会を通じてキリスト教を受け入れ、カトリックを信仰するようになりました。一時的にビザンツ帝国の影響を受けましたが、ヴラニミルがクロアチアを統一すると、再びローマ教会の元に復帰しました。

統一国家の形成

フランク王国が隆盛を迎えると、クロアチアにも侵攻し、803年にダルマチア北部を占領しました。その後、ビザンツ帝国が勢力を回復し、ダルマチアを支配下に置きました。875年、ビザンツ帝国はクロアチアにジュパと呼ばれる部族共同体を形成させ、初代クロアチア公トルピミル1世が登場しました。ヴラニミルの時代には、クロアチア統一が進み、879年にローマ教皇から独立国家として承認されました。ニンの族長トミスラヴは、マジャール人らを撃破し、924年にクロアチア人の統一に成功、926年にクロアチア王を名乗りました。

ハンガリーとの同君連合

トミスラヴの死後、クロアチアは一時的に混乱しましたが、ペタル・クレシミル4世やズヴォニミルの時代に繁栄を迎えました。しかし、ズヴォニミルの死後、王位継承を巡る争いが起こり、1102年にはハンガリー王カールマーンがクロアチアを占領し、クロアチアはハンガリーの支配下に入りました。ただし、クロアチア貴族側は、主体的に新国王を選出したと考え、この時の協定「パクタ・コンヴェンタ」を重視しました。

オスマン帝国の侵攻

オスマン帝国は、15世紀からバルカン半島への侵攻を開始しました。クロアチアは、1493年のクルバヴスコ・ポーリェの戦い、1526年のモハーチの戦いで相次いで敗れ、ハプスブルク帝国との関係を深めることによって、自治権を得つつもその支配下に収まることとなりました。

ハプスブルク帝国の支配

ハプスブルク帝国は、オスマン帝国の侵攻に対抗するため、クロアチアに軍政国境地帯を設け、クロアチア人やセルビア人を入植させました。この地域は、「キリスト教世界の前壁」として機能し、17世紀以降は人口が増加しましたが、農奴化が進み、社会経済的基礎組織である「ザドルガ」が崩壊しました。

ドゥブロヴニク共和国

一方、「アドリア海の真珠」と称されたドゥブロヴニクは、オスマン帝国に貢納を行うことで独立を維持しました。ドゥブロヴニクは、ラテンとスラブの要素が混ざり合い、オスマン帝国とヨーロッパ世界への窓口となりました。

民族意識の芽生え

19世紀に入ると、ナポレオンの侵攻により、クロアチアはフランスの支配下に入りました。その後、ハプスブルク帝国に併合されますが、ハンガリー化を恐れるクロアチア人らは、自治権を保持しようとし続けました。この頃から、クロアチア人全体に民族意識が芽生え始めました。

ユーゴスラビア王国の成立

第一次世界大戦後、クロアチアはセルビア人・クロアチア人・スロベニア人王国（後のユーゴスラビア王国）に組み込まれることとなりました。しかし、ユーゴスラビア王国は、民族構成が複雑という問題を抱えており、クロアチア人政治エリートらは自治と民族性の強化を求めました。

第二次世界大戦

第二次世界大戦中、ユーゴスラビアはドイツに占領され、クロアチアでは「クロアチア独立国」が設立されました。しかし、この独立国は、ナチス・ドイツと同様の人種政策を推し進めたため、多くの犠牲者を出しました。

ユーゴスラビア社会主義連邦共和国

第二次世界大戦後、ユーゴスラビアは社会主義国家となり、クロアチアもその一部となりました。しかし、1980年にチトーが死去すると、ユーゴスラビアは民族対立が激化し、解体へと向かいました。

独立、そして内戦へ

1991年、クロアチアは独立を宣言しましたが、セルビア人勢力との間で紛争が勃発しました。この紛争は、1995年に終結しましたが、多くの犠牲者を出し、クロアチア社会に大きな傷跡を残しました。

現代のクロアチア

紛争終結後、クロアチアは民主化を進め、2013年には欧州連合（EU）に加盟しました。2023年には共通通貨ユーロを導入し、シェンゲン圏への加入も果たしました。クロアチアは、過去の歴史を乗り越え、新たな発展を目指しています。

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