グシ・ハン王朝

グシ・ハン王朝

グシ・ハン王朝は、1642年にオイラト族ホショト部の指導者グシ・ハン（トゥルバイフ）によってチベットに樹立された王朝です。4代約80年続きましたが、1717年にジュンガル部の奇襲によって嫡系が途絶え、1723-24年には清朝の雍正帝によって傍系一族が攻撃され、チベットにおける権限を剥奪され、終焉を迎えました。

概要

グシ・ハン王朝の支配者たちは熱心なダライ・ラマの信奉者であり、その成立はチベット仏教界におけるダライ・ラマの地位を劇的に向上させました。ダライ・ラマは宗派を超えた政治・宗教の最高権威としての地位を確立しました。

しかし、18世紀初頭には、ダライ・ラマの継承者をめぐる王族内の激しい対立が生じ、ジュンガル部や清朝などの外部勢力を巻き込む内紛が起こりました。これにより王朝は衰退し、最終的には1723-24年に清朝の雍正帝によって征服されました。

歴史

1637年、ホショト部のトゥルバイフ（グシ・ハン）は、オイラト各部の連合軍を率いて青海地方に遠征し、敵対勢力を制圧しました。その後、ラサに上り、ダライ・ラマ5世から「シャジンバリクチ・ノミン・ハーン（護教王）」の称号を授与されました。

トゥルバイフは、同盟部族であるジュンガル部の指導者ホトゴチンに娘のアミンターラを嫁がせ、「バートルホンタイジ」の称号を与えてオイラト本国に帰還させました。また、オイラト本国に残した兄の子オチルトにホショト部の本家を継がせる一方、自身が相続する部衆を全て青海に呼び寄せ、チベット全土の征服に乗り出しました。

1642年、中央チベットの覇者ツァントェ王の本拠地シガツェを陥落させると、占拠したサムドゥプツェ宮殿においてチベット諸侯を並べ、「チベットの王」に即位しました。同時に、ダライ・ラマ5世をシガツェに招き、「チベット十三万戸」、すなわちヤルンツァンポ河流域を主とするチベットの中枢部を寄進し、ダライ・ラマ政権が発足しました。

トゥルバイフの子孫はその後四代にわたってチベット・ハン位を継承しましたが、1717年、ジュンガルの侵攻を受けてラサン・ハーンが死去し、トゥルバイフの直系は絶えました。青海地方に居住していた傍系王族たちも1723年 - 1724年に清朝の征服を受け、チベット各地に保有していた権益をすべて没収され、ホショト部によるチベット支配は終焉を迎えました。

チベットの歴代ハンと歴代ホンタイジ

1637年、青海草原を平定したオイラトの盟主トゥルバイフがダライ・ラマ5世から「ハン」号を受けたのと時を同じくして、ジュンガル部の部族長ホトゴチンは「ホンタイジ」号を授かりました。オイラト本国では、ホショート部の嫡系であるオチルトがハン位とハン号を、ジュンガル部の部族長がホンタイジ号を継承しました。

チベットでは、グシ・ハンの長子ダヤンの系統が、1717年までハン位とハン号を継承し続けました。ホンタイジ号については、17世紀末まで三代にわたり第六子ドルジの系統が継承しつづけましたが、17世紀末より生じたグシ・ハン一族の内紛により、ドルジ家以外の他の系統からもホンタイジ号を受けるものが出現するようになりました。

歴代チベット・ハン

歴代チベット・ホンタイジ

脚注

関連項目

チベット仏教
ゲルク派
オイラト
ホシュート
青海ホショト

参考文献

石濱裕美子『チベット仏教世界の歴史的研究』(東方書店,2000)所収「ダライラマがモンゴル王侯に授与した称号の意味と価値」(同書第４章, pp.107-142)

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