グリーゼ229Ac

グリーゼ229Acは、地球からおよそ19光年彼方、うさぎ座の方向にある赤色矮星グリーゼ229Aの周囲を回る可能性が指摘された太陽系外惑星です。この天体は2020年、主星グリーゼ229Aの視線速度のわずかな変化を捉えるドップラー分光法による観測データからその存在が示唆されました。この観測には、W・M・ケック天文台のケックI望遠鏡に搭載された分光器HIRESや、ラ・シヤ天文台の高精度視線速度系外惑星探査装置HARPSなどが用いられています。

検出された信号から、その下限質量は地球のおよそ7倍と計算されており、スーパーアースに分類される可能性が考えられています。主星からの平均距離は約0.339天文単位（およそ5070万km）で、これは太陽系における水星軌道よりわずかに内側に位置します。公転周期は約122日と計算されています。

主星のグリーゼ229Aは太陽よりも温度が低く暗い赤色矮星です。そのため、グリーゼ229Acが主星から受け取る放射エネルギーは、地球が太陽から受け取る量の約44%にとどまります。このことから、この惑星は主星のハビタブルゾーン（液体の水が存在しうる範囲）の楽観的な推定領域内に位置している可能性が指摘されました。PHLによる計算では、平衡温度はセ氏マイナス46度（227K）と見積もられ、地球類似性指標（ESI）は0.56と比較的高い値を示していました。ESIは惑星の地球との類似性を示す指標です。

しかし、たとえ楽観的なハビタブルゾーン内に位置する可能性があったとしても、グリーゼ229Aは活発な閃光星として知られており、突発的な強いフレアやコロナ質量放出などを頻繁に発生させる可能性があります。これらの活動は、惑星の環境、特に大気を剥ぎ取ったり、生命に有害な高エネルギー放射線を浴びせたりする可能性があり、もし惑星が存在するとしても、地球で見られるような生命体が存在するには非常に厳しい条件となる可能性も同時に指摘されていました。

さらに、グリーゼ229Acの実在そのものに対する疑問が後の研究で呈されています。特に2025年に発表された研究論文では、当初惑星の存在を示す証拠と考えられた主星の視線速度変化の信号が、主星自身の活動（黒点など）に起因する可能性が高いことが詳細な解析で示されました。恒星活動の影響を精密に差し引くと、惑星由来とされる視線速度の変動信号はほとんど観測されなくなりました。

したがって、当初グリーゼ229Acの証拠とされた視線速度の変動は主星自身の性質に起因するものであり、惑星は実在しない可能性が強く指摘されています。現時点では、グリーゼ229Acは「存在が示唆されたが、その後の研究で実在が疑問視されている天体」として扱われています。太陽系外惑星の探査において、恒星活動が視線速度法に影響を与えることは知られており、グリーゼ229Acの事例は、活動ノイズ除去の重要性を示す一例です。今後の観測・解析で最終的な結論が待たれます。

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