グリーゼ229

グリーゼ229（Gliese 229、GJ 229）は、地球から約19光年という比較的近い距離にある、うさぎ座の方向に見られる連星系です。

主星 グリーゼ229A

この連星系の中心をなす主星グリーゼ229Aは、太陽よりもやや小型な赤色矮星です。質量は太陽の6割弱、半径は約半分と推定されています。自転速度は非常にゆっくりとしています。グリーゼ229Aは、普段は活動が穏やかですが、表面の磁場活動によって不規則に明るさを増す「閃光星」としての性質も持ち合わせています。スペクトル観測では、カルシウムの輝線やコロナからのX線放射が検出されており、これは恒星の磁場が外層大気と相互作用していることを示唆しています。大規模な黒点活動は確認されていません。この星系は、銀河系内で比較的円に近い軌道を描きながら、銀河面とほぼ平行に運動しています。

伴星 グリーゼ229B

グリーゼ229の周囲を公転する伴星として、1990年代半ばに発見されたのがグリーゼ229Bです。この天体は、ティード1（Teide 1）と並び、褐色矮星であることが初めて確実視された記念碑的な天体の一つとして知られています。褐色矮星とは、中心部で水素の核融合を維持するほどには質量が大きくない、星と惑星の中間に位置する天体です。

グリーゼ229Bの質量は、発見当初、木星の約72倍と推定されていました。スペクトル中にメタン分子の強い兆候が検出されたことから、大気温度が比較的低いT型褐色矮星に分類されています。他にも、大気中には水蒸気、一酸化炭素、アンモニアなどの分子が存在すると考えられています。

グリーゼ229Bの軌道要素に関する研究は、その後の精密観測によって更新されてきました。特に、ヒッパルコス衛星やガイア衛星による位置天文学的観測データを用いた分析により、主星グリーゼ229Aの周りを、非常に高い離心率を持つ極端な楕円軌道で公転していることが明らかになりました。公転周期は、初期の推定では約217年と計算されていましたが、その後の詳細な観測からは約349年という、さらに長い周期であることが示唆されています。

グリーゼ229Bが連星であることの判明

長年の観測から、グリーゼ229Bは質量から予想されるよりも著しく暗いという特徴が知られていました。この矛盾を説明するため、実際にはグリーゼ229Bが単一の天体ではなく、互いに非常に近い距離を公転する連星である可能性が2021年頃から指摘されていました。そして2024年10月、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTや日本のすばる望遠鏡、アメリカのケック天文台などによる独立した高精度観測研究によって、この推測が裏付けられ、グリーゼ229Bが二つの褐色矮星から成る緊密な連星系であることが確実になりました。

この二つの褐色矮星は、質量が大きい方がグリーゼ229Ba、小さい方がグリーゼ229Bbと名付けられました。それぞれの質量は木星の約38倍と約33倍、半径は共に木星の約8割程度と推定されています。驚くべきはその距離感で、これら二つの天体はわずか約0.04天文単位（約600万キロメートル）しか離れておらず、約12日という極めて短い周期で互いの周りを公転し合っています。

惑星系の存在について

主星グリーゼ229Aの周囲では、かつて太陽系外惑星の存在が報告された時期もありました。2014年や2020年に行われた視線速度の分析に基づき、海王星サイズや地球の数倍の質量を持つスーパーアース級惑星が存在する可能性が提唱され、特に後者の候補天体は主星のハビタブルゾーン内にあるとみられていました。しかし、その後のより詳細な観測データを用いた分析や、主星グリーゼ229A自身の持つ活動性（閃光星活動など）が視線速度の測定に与える影響を考慮した最新の研究からは、過去に惑星の存在を示すと考えられた視線速度の周期的な変動が、ほとんど検出されなくなってしまうことが示されました。この結果は、過去に主張された視線速度の変化が、実際には惑星の重力ではなく、主星グリーゼ229A固有の恒星活動に起因するものである可能性が高いことを示唆しており、以前に報告された二つの惑星が実在しない可能性が強く指摘されています。

グリーゼ229系は、褐色矮星の発見における歴史的な意義に加え、その伴星がさらに複雑な連星系であることが明らかになるなど、現在も活発な研究が進められている注目の天体系です。

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