グリーゼ367b

グリーゼ367b

グリーゼ367b（Gliese 367 b または GJ 367 b）は、地球からおよそ31光年離れた位置にある赤色矮星、グリーゼ367の周囲を公転する太陽系外惑星です。

発見までの経緯

この惑星は、ドイツ航空宇宙センター惑星研究所などが参加する国際研究チームによって発見されました。その手掛かりとなったのは、NASAのトランジット系外惑星探索衛星TESSが2019年2月から3月にかけて取得した観測データです。TESSによる観測で惑星候補として検出された後、チリのラ・シヤ天文台にある高精度視線速度系外惑星探査装置（HARPS）を用いた主星の視線速度観測が行われました。これにより、グリーゼ367bの正確な質量が測定され、その密度が初めて算出されました。これらの詳細な研究成果は、2021年12月3日付で科学雑誌「サイエンス」に発表されています。

実は、TESSによる発見に先立つ2021年1月までに行われた観測でも、主星グリーゼ367の周りを短周期で公転する惑星の存在が示唆されていました。しかし、当時は得られたデータが実際には惑星ではない偽陽性（False-Alarm）である確率が89.5%と高く見積もられており、その存在の確実性は低いと判断されていました。
TESSによって発見されたことから、グリーゼ367bはTESS観測対象の惑星カタログであるTESS object of interest（TOI）に基づく名称も持っています。主星のグリーゼ367はTOI-731として、惑星のグリーゼ367bはTOI-731 bやTOI-731.01とも呼ばれることがあります。

惑星の特徴

グリーゼ367bは、質量と半径の両面で地球よりも小さい惑星です。具体的には、半径は地球と火星の中間程度であり、質量は地球の約6割強と見積もられています。これは、これまでに半径が判明している太陽系外惑星の中でも、特に小型の部類に入ります。

主星グリーゼ367からの距離はわずか100万キロメートル強しか離れておらず、その公転周期は8時間にも満たない極めて短いものです。このような惑星は「超短周期惑星（USP: Ultra-short Period planet）」に分類されます。主星に非常に近いため、グリーゼ367bが主星から浴びるエネルギーの総量は、地球が太陽から受ける量の実に約580倍にも達すると考えられています。この極端な近さにより、潮汐力によって惑星の自転と公転が同期（潮汐固定）している可能性が高いとみられており、常に同じ面を主星に向けて公転していると考えられています。

常に主星に面している昼側の表面は、平衡温度が1,365 K（約1,092 ℃）に達すると推定されています。この超高温環境下では、惑星の表面は溶岩に覆われていると推測されます。また、主星からの強烈な放射によって、惑星が形成時に持っていた大気もすでに剥ぎ取られてしまったと考えられています。

高密度と内部構造

グリーゼ367bの最も際立った特徴の一つは、その極めて高い密度です。質量と半径から計算される密度は、2023年に発表された研究報告によると約10.2 g/cm³と見積もられています。これは太陽系内で最も高密度な惑星である地球（約5.514 g/cm³）の約1.85倍にあたる値であり、密度が判明している他の多くの太陽系外惑星と比較しても、群を抜いて高い密度を持っています。

この高い密度は、純粋な鉄に近い値です。この特性から、グリーゼ367bはその大部分が鉄で構成されている「鉄惑星」であると考えられています。内部構造を見ると、惑星の内部半径の約86 ± 5%が鉄やニッケルといった金属からなる巨大な核であると推測されています。これは、核の半径が惑星全体の75〜85%程度を占めるとされる太陽系の水星と、内部構造が非常によく似ています。その組成や構造の類似性から、グリーゼ367bは「スーパーマーキュリー（Super Mercury）」とも呼ばれることがあります。

なぜこれほど巨大で高密度な核を持つ惑星になったのか、その正確な理由はまだ解明されていません。いくつかの可能性が提唱されています。一つは、元々は海王星ほどの大きさを持つガス惑星だったのが、主星からの強いエネルギー放射によって外層の大気が剥ぎ取られ、核の部分だけが残ったというシナリオです。もう一つは、巨大な天体衝突によって、核を覆っていた岩石質の厚いマントル層が失われてしまったというシナリオです。

公式名称

2022年、国際天文学連合（IAU）は、「持続可能な開発のための国際基礎科学年（IYBSSD2022）」に関連する企画として、「太陽系外惑星命名キャンペーン2022（NameExoWorlds 2022）」を実施しました。これは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の優先観測候補となっている太陽系外惑星20個とその親星を対象に、一般公募によって名前を付けるキャンペーンです。グリーゼ367星系（主星グリーゼ367と惑星グリーゼ367b）もこのキャンペーンの命名対象の一つに選ばれました。

2023年6月、IAUは最終的な命名結果を発表しました。その結果、主星グリーゼ367は「Añañuca（アニャニュカ）」、惑星グリーゼ367bは「Tahay（タハイ）」と正式に命名されました。

Añañucaとは、チリのコキンボ州からマウレ州にかけて自生する赤い花（Phycella cyrtanthoides）の名前で、これは主星グリーゼ367が赤色矮星であることを暗示しています。Tahayは、チリ中央部に固有の小さい花（Calydorea xiphioides）の名前で、この花が1年のうち7時間から8時間しか開花しないことから、グリーゼ367bのわずか8時間弱という短い公転周期を象徴しています。これらの名称は、発見に貢献したチリの文化にちなんだものです。

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