ゲートボール (バンド)

日本の音楽シーンにおいて、わずかな期間ながらも異彩を放ったバンド、ゲートボールは、1983年に結成され、同年中に活動を停止したロックバンドです。中心となったのは、音楽家、プロデューサーとして多方面で活躍する近田春夫。彼とともに、かつて近田が率いたバンド、近田春夫&ハルヲフォンに在籍した高木英一、そして女性ロックバンド、ガールズやピンナップスで活動したリタこと野元貴子が名を連ねていました。

ゲートボール結成に至るまで、メンバーそれぞれは多彩な音楽遍歴を重ねています。近田春夫は1979年に近田春夫&ハルヲフォンを解散。同時期にガールズも解散しており、ガールズのメンバーだったイリアこと奥野敦子と元ハルヲフォンの高木英一は新たなバンドを結成しようとしていました。一方で、近田も奥野に声をかけ、結果的に同年8月には近田春夫&BEEFが誕生します。近田のソロシングル発表後、彼は日本コロムビアへ移籍し、BEEFはジューシィ・フルーツへと発展的に改名。1980年6月1日にシングル「ジェニーはご機嫌ななめ」でデビューし、人気グループとなります。ジューシィ・フルーツが自身のバックバンドとしての稼働が難しくなった近田は、1981年初頭に人種熱を取り込み、近田春夫&ビブラトーンズを結成し活動を続けていました。

その頃、ガールズ出身のリタこと野元貴子は、1980年に新バンド、ピンナップスを結成します。このピンナップスのデビューには近田春夫が深く関与し、同年リリースのデビューシングル「あなたにオーバーヒート」をプロデュース。さらに、ピンナップスの作品には、元ハルヲフォンの高木英一もプロデューサーとして参加。1981年のファーストアルバム「ピンナップス」をはじめ、セカンドシングルやセカンドアルバムでもプロデュースを手がけました。このように、近田と高木はプロデューサーとして、リタはアーティストとして、ピンナップスを通じて音楽的な連携を深めていたのです。

1982年にピンナップスが解散を迎えた後、この3人が新たな形で集結します。プロデューサーとしてバンドを支えた近田春夫と高木英一、そしてメンバーだったリタこと野元貴子の3人が、1983年に結成したバンドこそが、ゲートボールでした。

ゲートボールの活動は非常に短期間に集中しており、残された音源も限られています。1983年には、徳間ジャパンからマキシシングルレコードとカセットテープによるアルバムをそれぞれ1タイトルずつリリース。さらに1984年には、カセットブック「TRA No. 5」にアルバム未収録の4曲が収録され発表されました。これらの音源に収められた楽曲は、すべて既存の楽曲のカバーでした。しかし、単なるカバーに留まらず、パーシー・フェイスの「魅惑のワルツ」、デヴィッド・ボウイの「スターマン」、坂本九の「上を向いて歩こう」、クラフトワークの「モデル」、フランク・シナトラが歌った「夜のストレンジャー」など、洋楽・邦楽、ジャンルを問わず幅広い楽曲を選び、それらをゲートボール独自の解釈でアンビエントサウンドへと大胆に再構築しています。こうしたカバー曲を素材に用いて新しいサウンドを創り出す手法は、近田春夫が過去に手がけたアルバム「電撃的東京」などでも見られた、彼ならではの音楽的アプローチの一つと言えます。

ゲートボールは、これらの独創的な音源を発表した後、短期間で活動を終えました。唯一のアルバム「スマートなゲートボール」は、1991年4月25日に徳間ジャパンコミュニケーションズから一度CDとして再発売されましたが、その後は長らく廃盤となり入手困難な状況が続いていました。しかし近年、日本の音楽ファンからの再評価が高まる中、2019年6月26日にはタワーレコード限定で、新たにリマスタリングが施された高音質CDとして再リリースされ、再び多くのリスナーが彼らのユニークな音楽に触れる機会を得ています。短命に終わったバンドではありますが、近田春夫とその周辺の才能が集まり、既存の音楽に新たな光を当てる実験的な試みを行った存在として、日本のロック・ポップス史の一角を占めています。

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