コグ船

コグ船とは

コグ船（コグせん、英語: cogs）は、12世紀頃から中世ヨーロッパ、特にバルト海沿岸地域で広く使われた木造帆船です。その特徴的な構造と、経済的な運航性から、当時の海上貿易を支える重要な役割を果たしました。

構造

コグ船の船体は、主にオーク材で造られました。船底は平らで、中央部は板を平滑に継ぎ合わせた構造をしており、船首と船尾に近づくにつれて板を重ねていく、いわゆるクリンカー構造に変化します。船底から立ち上がる船腹外板は、鉄釘で固定され、水密性を高めるために継ぎ目にはタールを染み込ませた苔が詰められました。

竜骨は、正確には竜骨部の板であり、その両側の翼板よりもやや厚い程度で、突合せ継ぎ手の溝はありませんでした。船首と船尾の柱材は直線的で長く、竜骨板とはフックと呼ばれる中間材で接続されました。これらの接合部はタールと苔でシールされ、木片と金属製の止め金で固定され、高い強度と水密性が確保されました。

船尾には、当時の北欧で発達した舵が取り付けられ、これにより航行性能が向上しました。

歴史

コグ船の起源は、948年にアムステルダム近郊でその名前が初めて使われたとされています。初期のコグ船は、ノルウェーのクナール船の影響を受けていましたが、クナールが操舵にオールを使っていたのに対し、コグ船は舵を使用しました。ただし、北欧で舵が一般的に使用されるようになったのは1240年頃からでした。

考古学的な調査から、初期のコグ船はユトランド半島西岸のフリースラント沿岸で建造された可能性が高いことが示唆されています。コグ船が本格的に海上貿易に使われるようになった背景には、リムフィヨルドの西側入り口が砂州で閉塞されたという事情があります。

かつてリムフィヨルドは、北海とバルト海を結ぶ安全な航路でしたが、砂州の発達により12世紀頃には閉塞してしまいました。このため、大型船はユトランド半島を迂回し、危険なスカゲン岬を通ってバルト海へ向かう必要が生じました。この変化が、船の構造に大きな変化をもたらし、コグ船の登場を促しました。初期のコグ船の発掘物からも、この変遷を読み取ることができます。

ハンザ同盟とコグ船

コグ船は、ハンザ同盟の主要な輸送手段として利用され、その発展に大きく貢献しました。広い積載スペースと比較的安価な建造コストを持つコグ船は、大量の物資輸送に適しており、ハンザ同盟の貿易活動を支えました。

コグ船は、単なる沿岸航行用の船ではなく、外洋での航海にも耐えうる堅牢な構造を持つようになり、船首と船尾には海賊対策の防御楼が設けられることもありました。1340年のスロイスの海戦では、コグ船が戦闘にも用いられた例があります。

コグ船の終焉とハルク船への移行

14世紀頃になると、コグ船の構造は限界に達し、より優れた船の登場が求められるようになりました。その代替として、ハルク船が登場しますが、ハルク船がコグ船から直接進化したという証拠はありません。しかし、この2種類の船は14世紀から15世紀にかけて技術的な交流があったと考えられています。

コグ船からハルク船への移行は、直線的なものではなく、両者がしばらく共存し、それぞれが多様な発展を遂げたという説もあります。いずれにしても、コグ船は中世ヨーロッパの海上輸送史において、重要な役割を果たした船であったことに変わりはありません。

参考資料

A History of Seafaring: Based on Underwater Archaeology (1972) - George F. Bass
Crumling-Pedersen, O., To be or not to be a cog: the Bremen Cog in Perspective (2000)
Hocker, F., 1991, Cogge en Coggeschip: Late Trends in Cog Development
Gardnier, R., 1994, Cogs, caravels and galleons: the sailing ship, 1000-1650

関連項目

帆船

外部リンク

Description and pictures of cogs
Hanseatic League ship of 1470: pictures of a model
The sailing properties of the Hanse cog in comparison with other cargo sailships

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