コトル湾

コトル湾：アドリア[[海]]の真珠

コトル湾（セルビア語: Бока которска, クロアチア語: Boka Kotorska, イタリア語: Bocche di Cattaro）は、モンテネグロ南西部に位置する、アドリア[[海]]に深く入り込んだ複雑な形状の湾です。その美しい景観から「ヨーロッパ最南部のフィヨルド」や「世界一美しい湾」とも称され、モンテネグロを代表する観光地として知られています。

息を呑むほどの美しさ

オリエン山からの浸食によって形成されたこの湾は、複雑に入り組んだ海岸線と、コトル、ペラスト、リサン、ティヴァト、ヘルツェグ・ノヴィといった歴史的な街並みが織りなす景観が特徴です。これらの街々は、美しい自然環境に溶け込み、独特の雰囲気を醸し出しています。湾内には大小様々な入り江があり、静かな水面と周囲の山々の緑が美しいコントラストを描いています。

歴史と文化の宝庫

コトル湾は古代から人々が定住し、その歴史は紀元前229年頃にイリュリア人の都市リゾン（Rhizon）が栄えたことにまで遡ります。その後、ローマ帝国、ブルガリア帝国、セルビア王国、ヴェネツィア共和国、オスマン帝国など、様々な勢力の支配下に置かれ、それぞれの時代の痕跡が街並みや建築物に残されています。中世の街並みは良く保存されており、歴史散策を楽しむことができます。

特にコトルの旧市街は、城壁に囲まれた要塞都市として知られ、その美しい石造りの建物や教会は、往時の繁栄を物語っています。湾内には正教会とカトリック教会が数多く存在し、その中には聖母教会として知られる岩礁の教会なども含まれ、宗教的な巡礼地としても重要な役割を果たしています。ペラスト沖の小さな岩礁全体が教会となっている様子は、信仰の深さを物語る象徴的な光景です。

複雑な歴史

コトル湾の歴史は、周辺地域勢力間の覇権争いと密接に結びついています。ヴェネツィア共和国とオスマン帝国の支配が交錯した歴史を持ち、宗教的にも正教会とカトリックが混在する独特の文化が形成されました。19世紀にはナポレオン軍の支配下に入り、その後オーストリア＝ハンガリー帝国に併合され、第一次世界大戦後はユーゴスラビア王国の一部となりました。第二次世界大戦後には、モンテネグロ共和国の一部として今日に至っています。18世紀にはボケリ家は強力な艦隊を保有し、ドゥブロヴニクやヴェネツィアと競い合っていました。また、1848年にはコトルの住民集会は、モンテネグロ主教公ペータル2世ペトロヴィッチ＝ニェゴシュのクロアチア＝スラヴォニア統合の提案を拒絶し、セルビアとの統合を優先する姿勢を示しました。

人口と民族

コトル湾地域の人口は、セルビア人とモンテネグロ人が多数を占めており、クロアチア人も一定の割合を占めています。宗教的には、正教会とカトリックが共存しており、特に19世紀までの統計では、地域によって正教会とカトリックの信徒数の割合が大きく異なっていました。1818年から1910年にかけて行われた国勢調査では、コトル、リサン、ヘルツェグ・ノヴィなどの都市や村落において、正教会とカトリックの信徒数の推移が詳細に記録されています。この複雑な歴史と民族構成が、コトル湾の多様な文化を形成していると言えるでしょう。今日では正教会信徒が多数を占め、セルビア人かモンテネグロ人を自称する人が多い一方で、カトリック信徒の多くはクロアチア人を自称しています。さらに、ヴェネツィア方言を話すイタリア人コミュニティも存在します。

自然環境と地理

コトル湾は、複雑な地形と多様な自然環境を特徴としています。湾内には複数の入り江があり、優れた天然港として利用されてきました。また、オリエン山などから流れ込む水流や、季節風であるボーラやシロッコなども湾の気候に影響を与えています。オリエン山はヨーロッパで最も降雨量の多い地域の一つとして知られ、特に11月の雷雨は非常に激しい雨をもたらします。

コトル湾の沿岸には、正教会の聖サヴァ修道院やサヴィナ修道院などの宗教施設があり、豊かな歴史と文化を物語っています。1979年には地震により多くの文化遺産が被害を受けましたが、現在も多くの観光客が訪れる人気の観光地です。

未来への展望

近年、モンテネグロ政府はコトル湾にヴェリゲ橋を建設する計画を進めています。この橋の建設は、地域の交通インフラの向上に寄与する一方、景観への影響も懸念されています。コトル湾の未来は、歴史と文化の保存と、持続可能な発展の両立が求められています。UNESCOの世界遺産にも登録されているコトル湾は、その美しい景観と豊かな歴史、そして多様な文化を未来へ継承していく必要があります。

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