コプト美術

コプト美術は、3世紀から12世紀頃までのコプト正教会の美術を指す歴史的、美術史的な用語です。現存するコプト美術の遺品の多くは、キリスト教の教会などに関連するものが多くなっています。

コプト人は、政治権力の中枢から遠ざかっていたため、その美術は時代の主流となることはなく、常に地方的な分派として存在していたことが大きな特徴です。また、コプト正教会の教義の上では、同じくキリスト合性論をとるシリア正教会やアルメニア使徒教会と繋がりを持っています。そのため、コプト美術には様々な地域の要素が混在しています。

7世紀中ごろにエジプトがイスラム化されてからは、コプト人はナイル上流の僻地や砂漠のオアシスなどに小さな集団を作って住み、独特のキリスト教文化を形成しました。その結果の一つがコプト美術です。コプト美術は、王朝時代以来の古代エジプト美術の伝統とともに、ヘレニズム様式、ビザンティン様式、シリア、アルメニア、エジプト土着の伝統を融合しています。その土台となったのは土俗性を強く残した素朴な美術であり、これらの様式の折衷、混成も見られます。また、ヌビアやエチオピアなどとも強い関連が見られます。

聖堂などもナイル川沿岸の上流まで各地に多く建てられましたが、現在はほとんどが廃墟となっています。

コプト織

コプト美術における織物は「コプト織」と呼ばれています。3世紀から8世紀にかけてコプト人が創始・発達させました。素材は麻、羊毛、絹などが用いられています。

コプト美術は、多様な文化が融合した独特の美術様式であり、その遺産はコプト人の信仰と生活を今に伝える貴重なものです。

参考文献

佐々木 良子「紫円文コプト織りの材質分析 : 微量分析手法への顕微反射スペクトルと質量分析の適用」『考古学と自然科学』第56巻、2007年、27-39頁。
東村純子（著）、京都大学総合博物館（編）「古代エジプト・コプト織物のワークショップ報告 [5]」『京都大学総合博物館ニュースレター』第26巻、京都大学総合博物館、2012年2月、1-8頁。
虻川 操「京都大学総合博物館 エジプト考古資料コプト織物について」『へレニズム～イスラーム考古学研究』、京都大学総合博物館、2017年。
須藤 良子「コプト裂とインドの更紗」『コプトの染織 女子美術大学美術館カタログ』第1巻、2019年、13-16頁。
須藤 良子「エジプト・コプトの染織品とインド更紗の制作年代および制作地に関する研究」『月刊考古学ジャーナル』第725巻、2019年、34-37頁。
長谷川 奏「巡礼壺、エジプト赤色スリップ（白色化粧土群）、ヌビア系彩文 : コプト博物館所蔵資料から」『イスラム科学研究』第10巻、2014年、41-50頁。

外部リンク

* コプト美術 - コトバンク

もう一度検索