コロンビア最高裁占拠事件

コロンビア最高裁占拠事件：正義の殿堂で起きた悲劇

1985年11月6日から7日にかけて、コロンビアの首都ボゴタで発生したコロンビア最高裁占拠事件は、左翼ゲリラ組織「4月19日運動」（M-19）による人質事件です。この事件は、コロンビアの司法、政治、そして社会全体に深い傷跡を残しました。

事件の概要

1985年11月6日午前11時35分、M-19の武装ゲリラ35名が最高裁判所兼法務省ビル（正義宮殿）に侵入。警備員2名を殺害し、国会議員や市民、判事12名を含む約300名を人質にとりました。ゲリラたちは、当時のベリサリオ・ベタンクール大統領との直接交渉を要求。しかし、政府は交渉を拒否し、治安部隊は事件発生から3時間後、装甲車などを使って突入作戦を開始しました。

28時間に及ぶ激しい銃撃戦の末、治安部隊は最高裁を制圧。ゲリラは全員殺害または制圧されましたが、最高裁は炎上し、最高裁長官を含む判事11名、兵士48名、市民60名、合わせて115名もの犠牲者を出す大惨事となりました。

事件の背景

事件の背景には、当時のコロンビアが抱えていた深刻な麻薬問題がありました。麻薬密売組織メデジン・カルテルの最高幹部パブロ・エスコバルが、自身のアメリカへの身柄引き渡しを阻止するため、M-19の指導者カルロス・ピサロに最高裁長官の暗殺と麻薬関連書類の焼却を依頼。ピサロが230万ドルでこれに応じたとされています。

また、最高裁が軍による左翼活動家に対する人権侵害を審理していたことも、事件の背景として指摘されています。混乱に乗じて治安部隊が証拠隠滅のための意図的な放火や目撃者の殺害を行ったという情報も存在します。

類似事件と影響

M-19は、事件の5年前にもドミニカ共和国大使館占拠事件を起こしており、各国大使らを人質に政治犯の釈放を要求しています。この事件は、日本赤軍によるクアラルンプール事件を参考にしたとされ、当初はボゴタの日本大使館を襲撃する計画もあったとされています。

また、1996年の在ペルー日本大使公邸占拠事件を起こしたトゥパク・アマル革命運動（MRTA）はM-19と共闘関係にあり、M-19のドミニカ事件を参考にしていたと言われています。

この事件を契機に、コロンビア陸軍には都市テロ対策特殊部隊（AFEUR）が設立されました。また、事件から20年後には、当時の軍諜報機関のエージェントが事件の真相を告白。元M-19ゲリラの上院議員との共著で事件に関する書籍が出版されました。

2010年には、当時の陸軍大佐に禁固30年の判決が下され、2015年には元大佐と元少佐に禁固40年の判決が言い渡されました。

コロンビア最高裁占拠事件は、単なるテロ事件として片付けることのできない、複雑な背景と深い闇を抱えた事件です。この事件は、コロンビアの歴史に深く刻まれ、現在もなお、その影響は社会の様々な場所に残っています。

関連項目

テロリズム
ボリバル広場

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