コンクリート・ポエトリー

コンクリート・ポエトリー：言葉の視覚化、そしてその歴史

コンクリート・ポエトリーとは、詩の表現において、言葉の意味よりも、視覚的な構成や配置を重視する詩の形態です。従来の詩が言葉の意味や叙情性を中心としていたのに対し、コンクリート・ポエトリーは、文字や記号の配置、形、空間といった視覚的要素を最大限に活用することで、新たな詩的表現を追求します。いわば、詩を「見る」ための芸術と言えるでしょう。

コンクリート・ポエトリーの起源と発展

コンクリート・ポエトリーの起源は古く、17世紀のジョージ・ハーバートの作品に見られるような、視覚的な要素を取り入れた詩の伝統の上に成り立っています。その後、ステファヌ・マラルメやギヨーム・アポリネールといった詩人が、言葉の配置や形態を詩表現の重要な要素として捉え、その後のコンクリート・ポエトリーの発展に大きく貢献しました。また、E・E・カミングスやエズラ・パウンドといった詩人も、独自の詩作を通じてコンクリート・ポエトリーの基礎を築きました。

1953年、E.ゴムリンガーによる『星座』発表と「Konkrete Dichtung（具体的な詩）」の提唱は、コンクリート・ポエトリーという概念を確立する重要な転換点となりました。この概念は、マックス・ビルの「Konkrete Kunst（具体的な芸術）」という理念の影響を強く受けています。

日本のコンクリート・ポエトリー運動

日本では、1956年に北園克衛と新国誠一による「具体詩宣言」が発表され、コンクリート・ポエトリー運動が始まりました。北園克衛は、写真と詩の境界を曖昧にする独自の表現方法を確立し、写真集も発表しました。彼の作品は、詩と写真の融合という新たな視覚表現の可能性を示しています。一方、新国誠一は、漢字を素材とした作品で知られ、「空間主義宣言」を提唱、詩の朗読にも力を入れました。

向井周太郎や藤富保男といった詩人も、日本のコンクリート・ポエトリー運動において重要な役割を果たしました。彼らの作品は、言葉の配置や形態の多様性を示し、コンクリート・ポエトリーの表現の可能性を広げました。

近年では、東日本大地震以降、ni_kaによるAR詩やモニタ詩といった新たな表現形式が登場し、北園克衛や新国誠一の影響を受けつつ、デジタル技術を駆使したコンクリート・ポエトリーが制作されています。また、最果タヒもインターネット上でコンクリート・ポエトリー的な要素を取り入れた作品を発表するなど、現代においてもコンクリート・ポエトリーは進化を続けています。

コンクリート・ポエトリーの意義

コンクリート・ポエトリーは、詩の表現の可能性を大きく広げた重要な芸術運動です。言葉の意味にとらわれず、視覚的な要素を積極的に取り入れることで、従来の詩では表現できなかった新たな世界を創造しました。その実験的な試みは、現代の詩や芸術表現にも大きな影響を与え続けています。

参考文献

『記号としての芸術　講座･記号論３』（川本茂雄ほか編）向井周太郎,「コンクリート・ポエトリー」（勁草書房、1982年）
『北園克衛詩集』（思潮社、1981年）
『新国誠一 works 1952-1977』（思潮社、2008年）
『北園克衛の詩』（金澤一志、思潮社）

参考資料

* 「コンクリート・ポエトリーとはどういうものか、また代表的な作家についてわかる資料を知りたい。」（大阪府立中央図書館） - レファレンス協同データベース

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