コンピュータ囲碁

コンピュータ囲碁：人工知能による囲碁の進化

コンピュータ囲碁は、人工知能（AI）研究における重要な分野の一つであり、囲碁をプレイできるコンピュータプログラムの開発を目的とした取り組みです。囲碁AIとも呼ばれ、その進歩は目覚ましく、現在ではプロ棋士を凌駕するレベルに到達しています。

コンピュータ囲碁の位置づけ

ボードゲームにおけるコンピュータプログラムの難易度は、ゲームの複雑さ、特に局面ごとの着手可能数によって大きく左右されます。チェスは比較的選択肢が少ない一方、将棋は持ち駒の存在により複雑性が増し、囲碁は盤面の広さから桁違いに多くの選択肢が存在します。そのため、コンピュータサイエンティストの間では、当初から囲碁が最も攻略困難なゲームだと考えられていました。

実際に、コンピュータ囲碁の開発は長い間、困難を極めました。初期のプログラムはアマチュアレベルを脱することができず、プロ棋士との対局は勝負になりませんでした。

開発の歴史とレベル向上

コンピュータ囲碁の研究は1980年代から本格的に始まりました。当初は、日本、中国、台湾など囲碁が盛んな国々で研究開発が進められました。2000年代前半には、アマチュア初段レベルの認定を受けるアプリケーションが登場しましたが、実際には級位者レベルにとどまっていました。しかし、2000年代後半にモンテカルロ法が導入されたことで、アマチュア段位者のレベルに飛躍的に向上しました。

2012年には、プロ棋士との公開対局で4子局で勝利できるようになり、アマチュア6段程度の棋力があると評価されるようになりました。しかし、2010年代前半までは、プロ棋士との間には大きな実力差があり、4子以上のハンディキャップがなければ勝利することは困難でした。

アルファ碁の登場と衝撃

2015年、Google傘下のDeepMind社が開発した「AlphaGo（アルファ碁）」は、プロ棋士との互角の対局で勝利を収め、世界に衝撃を与えました。2016年には、世界トップクラスのプロ棋士である李世乭（イ・セドル）との五番碁に勝利し、2017年には柯潔（カケツ）との三番碁にも三連勝し、コンピュータ囲碁は人間を完全に追い越したことを示しました。

その後の展開

アルファ碁の登場以降、コンピュータ囲碁は急速に進化し、プロ棋士の研究や戦術にも大きな影響を与えています。現在では、プロ棋士もコンピュータが生み出した新しい戦法を採用するなど、AIは囲碁界にとって不可欠な存在となっています。

歴史

1960-70年代

コンピュータ囲碁の研究はアメリカで始まりました。1962年にRemusがコンピュータ囲碁に関する論文を発表し、1969年にはZobristが19路盤で動作するプログラムを開発しましたが、その棋力は38級程度でした。1970年代には、石の周辺の影響力を関数で扱う手法や、石の生死を判定するアルゴリズムが登場し、1979年には15級程度の棋力を発揮するプログラムが登場しました。

1980年代

1984年には最初のコンピュータ囲碁大会が開催されました。1985年には、台湾の応昌期が設立したING杯が、プロ棋士に勝利すれば巨額の賞金を出すと発表し、話題になりました。この時期には、アメリカの「Nemesis」や台湾の「Dragon」など、多くのプログラムが登場しました。

1990年代

1990年代には、中国の「Handtalk」や「Silver Igo」などがアマチュア級位者レベルに到達しました。この頃のプログラムは、石の繋がりや地の大きさなどから局面を評価する静的評価関数や、定石や布石のデータベースを用いた知識ベースの手法が用いられました。

2000年代

2006年には、モンテカルロ法とゲーム木探索を組み合わせた「モンテカルロ木探索」が実装された「Crazy Stone」が登場し、コンピュータ囲碁の棋力は飛躍的に向上しました。2008年には、モンテカルロ木探索を採用した「MoGo」がプロ棋士に勝利し、大きな話題を呼びました。

2010年代前半

2010年代前半には、多くのプログラムがプロ棋士と互角に戦えるレベルに近づき、2013年からは「電聖戦」が開催され、プロ棋士とコンピュータプログラムが対戦するようになりました。

2010年代後半

2016年、アルファ碁が登場し、コンピュータ囲碁は人類のトップレベルを凌駕するレベルに到達しました。アルファ碁はディープラーニングと強化学習を用いて、人間を超える棋力を獲得しました。

2020年代

2020年代に入ると、コンピュータ囲碁はプロ棋士の研究ツールとして活用されるようになり、新たな戦術や定石が発見されています。しかし、AIの弱点を突いた対コンピュータ戦法も発見され、コンピュータ囲碁は新たな課題に直面しています。

コンピュータ囲碁の課題点

モンテカルロ碁登場前

初期のコンピュータ囲碁には、評価関数の構築が難しいという課題がありました。囲碁は、盤面が広く、石の価値が状況によって変化するため、チェスや将棋のように明確な評価関数を作るのが困難でした。

モンテカルロ碁登場後

モンテカルロ法が導入されたことで、コンピュータ囲碁の棋力は大きく向上しましたが、死活やシチョウなど、特定の状況における判断は苦手であるという課題が残りました。

アルファ碁の登場

アルファ碁の登場により、ディープラーニングを用いた新しいアプローチが生まれましたが、完全な論理的理解はまだ実現しておらず、ソフト打ちなどの不正行為も問題となっています。

対局以外での利用

プロ棋士を超える棋力を獲得した現在では対局以外での活用も増えています。

AIを利用した検討・研究での利用

近年では、AIを用いた研究が盛んに行われています。AIは、過去の棋譜を分析したり、新しい定石を発見したりするのに役立ち、囲碁の進化に貢献しています。

対局中継での形勢判断

AIによる形勢判断の表示は、囲碁観戦をより分かりやすく、より深く楽しむことを可能にしています。

カンニング問題

近年では、対局中にスマートフォンなどでAIの手を参照する不正行為が問題視されています。

コンピュータ囲碁棋戦

現在、様々なコンピュータ囲碁の大会が開催されており、AI技術の進歩と囲碁の未来を牽引しています。

囲碁プログラム

囲碁プログラムはPCだけでなく、ゲーム機やスマートフォン向けにも開発されています。

まとめ

コンピュータ囲碁は、AI技術の発展とともに目覚ましい進化を遂げてきました。当初は人間との実力差が大きかったものの、モンテカルロ法の導入やディープラーニングの進化により、現在では人間を超える棋力を獲得しています。コンピュータ囲碁は、プロ棋士の研究ツールとして活用される一方で、不正行為などの課題も抱えています。今後も、技術の進歩とともに、囲碁の新たな可能性を切り開いていくことが期待されます。

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