ゴルカル

ゴルカル（Golkar）とは

ゴルカルは、インドネシアの政治団体であり、政党です。その立党原則は、パンチャシラ（建国5原則）と1945年憲法に置かれています。「ゴルカル」は、「ゴロンガン・カリヤ Golongan Karya」（職能集団）の略称です。

スハルト政権下でのゴルカル

旧スハルト政権下では、ゴルカルは総選挙で圧倒的な得票率を誇り、政権を支える「与党」として機能しました。しかし、当時の「政党とゴルカルに関する法律」では、ゴルカルは政党ではなく「職能団体」と規定されていました。スハルト失脚後、ハビビ政権下で制定された新政党法により、ゴルカルは「政党」として再編されることになりました。

ゴルカルの起源

ゴルカルの組織的な起源は、スカルノ政権末期に遡ります。当時、インドネシア共産党（PKI）の勢力が拡大し、これを警戒した国軍は、PKIに対抗する組織として、1964年にゴルカル共同事務局（Sekber Golkar）を発足させました。9月30日事件でPKIが壊滅し、スハルト政権が成立すると、ゴルカルはスハルトを支える政治団体として重要な役割を担うことになりました。

スハルト政権とゴルカル

スハルトは、政党政治から距離を置いていましたが、自らの再選のために与党を必要としていました。そこで、アリ・ムルトポに命じ、ゴルカルを政党のような組織に改造させました。ムルトポは、経済発展や社会秩序の安定を掲げ、組織票のノルマを割り当てることで、ゴルカルの支持を固めました。1971年の総選挙で、ゴルカルはスハルト政権を支持する政治団体として参加しました。

スハルト時代の制度的優位性

スハルト時代、ゴルカルが圧倒的な強さを誇ったのは、法制度面での優遇があったからです。「政党・ゴルカル法」では、政党の支部組織設置基準が限定されていたため、他の政党は地方への浸透が困難でしたが、ゴルカルは地方官僚組織と一体化し、草の根レベルまで影響力を浸透させました。また、公務員はゴルカルへの加入を推奨され、組織の拡大に貢献しました。

スハルトはゴルカルの総裁ではなかったものの、中央顧問会議の議長として実質的にゴルカルを支配していました。また、党運営資金面でも、党費以外の寄付が無制限であったため、資金が豊富でした。しかし、その不透明さから、汚職や縁故主義の温床にもなっていたと指摘されています。

選挙制度もゴルカルに有利に定められており、選挙管理委員会の委員長や委員は公務員が兼任し、選挙の実施機関と官僚組織が一体化していました。また、選挙運動には公務員や軍人が動員され、投票は村の役場で行われたため、有権者は事実上、ゴルカルへの投票を強要されました。このように、政府統制下で実施された総選挙は、ゴルカルの圧倒的な勝利を誇示するための「民主主義の祭典」として機能していました。

ゴルカルの組織構造

ゴルカルは、7つ（1971年からは8つ）の母体組織集団（KINO）の連合体でした。その中核は、トリカルヤと呼ばれる非公式な団体群で、相互扶助多目的団体連合（KOSGORO）、インドネシア自立勤労者中央連合（SOKSI）、相互扶助家族主義協議会（MKGR）などがありました。また、インドネシア人民職能連合（GAKARI）、国防治安大衆団体（Ormas Hankam）、専門職能団体、開発職能団体、インドネシア共和国公務員連盟（KORPRI）などが存在しました。

1971年の選挙での大勝後、ゴルカル内部では、国軍、内務省、「KINO」出身者、そして選挙工作を行っていた総選挙監督局（BAPILU）のグループ間で派閥が生まれました。これらの派閥は、後に「ゴルカル大家族」と呼ばれる概念にまとめられ、国軍（ルートA）、官僚（ルートB）、ゴルカル生え抜き（ルートG）の3つに分類されました。

スハルト体制の終焉とゴルカルの変革

スハルトの失脚後、ハビビ政権下でゴルカルは政党として再編され、アクバル・タンジュンが初めて前総裁の指名によらず選出されました。しかし、1999年の総選挙ではスハルト色を払拭できず、新党に票を奪われ、第2党に転落しました。

ゴルカルは野党に転じた後、2004年の大統領選挙ではウィラント将軍を擁立しましたが、当選には至りませんでした。その後、国民協議会では第2党の座を保ち続け、2014年にはジョコ・ウィドド政権に協力する形で与党入りしました。

ゴルカルの現代的課題

ゴルカルは、スハルト政権下での圧倒的な支持を失い、現在は他の政党との競争にさらされています。その組織構造や政治戦略は、民主化後のインドネシアの政治状況に合わせて変化を迫られています。ゴルカルは、過去の遺産を乗り越え、新たな支持基盤を確立する必要に迫られています。

まとめ

ゴルカルは、インドネシアの政治史において重要な役割を果たしてきた政党です。その起源は職能集団にあり、スハルト政権下では圧倒的な力を持っていましたが、政権崩壊後、民主化の波の中で、党としての再編を余儀なくされました。現在もインドネシア政治において影響力を持つゴルカルの今後の動向が注目されます。

参考文献

村島･萩原･岩崎編 『ASEAN諸国の政党政治』、アジア経済研究所、1992年
大形利之 「ゴルカル - スハルトと国軍のはざまで -」、安中章夫・三平則夫編『現代インドネシアの政治と経済 - スハルト政権の30年 -』、アジア経済研究所、1995年
加納啓良 「インドネシアの官僚制 - 公務員制度を中心に -」、岩崎育夫・萩原宣之編『ASEAN諸国の官僚制』、アジア経済研究所、1996年
尾村敬二編 『スハルト体制の終焉とインドネシアの新時代』、アジア経済研究所、1998年
加納啓良 『インドネシア繚乱』、文春新書、2001年
増原綾子 『スハルト体制のインドネシア - 個人支配の変容と一九九八年政変』東京大学出版会、2010年
Nishihara, Masashi, Golkar and the Indonesian Elections of 1971, Cornell Modern Indonesia Project, 1972
Schwarz, Adam & Jonathan Paris eds., The Politics of Post-Suharto Indonesia, Council on Foreign Relations Press, 1999
Schwarz, Adam, Nation in Waiting : Indonesia's Search for Stability,2nd edition, Allen&Unwin, 1999

関連項目

スハルト
ユスフ・ハビビ
開発独裁
ヘゲモニー政党制
インドネシア民主党
* 闘争民主党

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