ゴル＝ゴロスとグロス＝ゴルカ

ゴル＝ゴロスとグロス＝ゴルカ、そしてハワード神話の邪神たち

ロバート・E・ハワードは、自身の冒険活劇やホラー作品の中で、人類の歴史よりも遥かに古い太古の存在や、名状しがたい異形の神々を描き出しました。クトゥルフ神話体系において、特にハワード作品を起源とする神格として知られるのが、ゴル＝ゴロスとグロス＝ゴルカです。これらの神は、1931年のハワードの短編『バル＝サゴスの神々』に初めて登場しました。物語の舞台である古王国バル＝サゴスは、かつて大西洋上に存在したとされる伝説の大陸アトランティスの残滓と伝えられており、そこでこの二柱が崇拝されていたとされます。

ハワード作品には、これら特定の名前を持つ神格以外にも、個別の物語に現れる恐ろしく強力な怪物や邪悪な存在が多く描かれています。ハワード自身は必ずしもそれらに固有名詞を与えませんでしたが、後代の作家や研究者によって、これらがクトゥルフ神話の一部として解釈され、体系化されることになります。特に、リン・カーターやロバート・M・プライスといった作家が、ハワード作品の神々や怪物をクトゥルフ神話の広がりに組み込む上で重要な役割を果たしました。

『バル＝サゴスの神々』の神々

『バル＝サゴスの神々』では、島に君臨する古王国の信仰の対象として神々が登場しますが、作中で具体的に描かれるのは以下の二柱です。

ゴル＝ゴロス (Gol-goroth)
暗黒を司る神であり、バル＝サゴスにおける主神的な存在とされます。しかし、ハワードの原作においては、その姿は明確に描写されず、崇拝の対象としての石像が登場するに留まっています。これはハワードがよく用いる、正体不明の恐怖を描く手法の一つと言えます。

グロス＝ゴルカ (Groth-golka)
鳥の姿をした神であり、怪鳥として表現されます。物語の中では、主人公の一行によって討伐される対象として描かれています。

ハワード作品における名状しがたい存在

ハワードは『バル＝サゴスの神々』以外にも、様々な作品で得体の知れない邪神や怪物を登場させています。これらの存在もまた、後にクトゥルフ神話内で解釈されることとなります。例えば、『黒の碑』に登場するヒキガエルに似た怪物や、『屋根の上に』で描写される触角と蹄を持つ怪物などが挙げられます。これらは古代の異質な力や信仰の対象として描かれ、互いに古代文字などを通じて関連性が示唆される場合もあります。

プライスはこれらの名もなき怪物もまたゴル＝ゴロスの一側面、あるいはその顕現であるとする説を提唱し、これがクトゥルフ神話におけるゴル＝ゴロスの一般的なイメージ形成に大きな影響を与えました。特に、ヒキガエルのような姿を持つというイメージは、ハワードの『黒の碑』に登場する怪物の描写から取り入れられたものです。一方、当初カーターが鳥の神ゴル＝ゴロスを登場させた際に、後にグロス＝ゴルカへと名称が修正された経緯もあり、ゴル＝ゴロスの姿や同一性については複数の説が存在します。

ハワードの他の作品にも、例えば異次元に潜む『アッシュールバニパルの焔』の守護者や、地底を移動する巨大な蛆状の怪物などが登場し、いずれも人智を超えた太古の存在として描かれています。これらの多様な怪物は、ハワードが創造した恐怖の世界観を形作る要素であり、クトゥルフ神話の拡張において、様々な形で既存の神格（例えばツァトゥグァや大地の妖蛆）と結びつけられたり、新たな解釈が加えられたりしています。

拡張されたクトゥルフ神話における位置づけ

カーターやプライス以降、ゴル＝ゴロスとグロス＝ゴルカ、そしてハワード作品の他の怪物はクトゥルフ神話の体系に組み込まれました。プライス説が広まった結果、ゴル＝ゴロスはヒキガエル状の姿で語られることが多くなり、一方でグロス＝ゴルカは鳥の神としての性格を保持しています。また、カーターの設定ではゴル＝ゴロスがムノムクアの兄弟であるとされたり、グロス＝ゴルカ（またはゴル＝ゴロス）にシャンタク鳥や外世界からの漁師といった鳥の眷属が仕えるとされたりと、複雑な関係性が付与されています。

しかし、これらの拡張には設定の錯綜も見られます。例えば、シャンタク鳥と外世界からの漁師の関係や、クームヤーガの扱いなどは、作家や資料によって描写が異なります。また、『黒の碑』などに登場する怪物がツァトゥグァと同一視される説も存在し、ゴル＝ゴロスに関する議論は今なお続いています。

ハワードが生み出したこれらの神々や怪物は、未開の地や忘れ去られた古代の遺物の中に潜む、理解不能な恐怖の象徴です。それらは後の作家たちによってクトゥルフ神話の広大な宇宙に組み込まれ、その異質で不気味な魅力を保ち続けています。

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