サオ (衛星)

海王星の第11衛星：サオ (Neptune XI Sao)

サオは、太陽系の外縁部に位置する巨大氷惑星、海王星の軌道を回る14個の既知の衛星のうち、11番目に確定番号を与えられた天体です。正式名称はNeptune XI Saoと表記されます。比較的小さく、遠方を公転しているため、発見は比較的最近のことでした。

発見の経緯

サオの発見は、2002年 8月14日にさかのぼります。マシュー・J・ホルマン率いる観測チームが、チリにあるセロ・トロロ汎米天文台の4メートル望遠鏡と、ハワイのマウナ・ケア山にあるカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡という大型望遠鏡を用いて、集中的な観測を行った結果捉えられました。

この発見は、同時に見つかったハリメデやラオメデイアといった他の海王星の衛星の発見と併せて、翌2003年1月13日に国際天文学連合および小惑星センターのサーキュラーを通じて世界に公表されました。公表当初、この衛星にはS/2002 N 2という仮符号が与えられました。

この発見は、天文学界にとって注目すべき出来事でした。というのも、海王星の新たな衛星が確認されたのは、1989年にNASAの探査機ボイジャー2号が海王星に接近通過（フライバイ）して以来のことだったからです。さらに、地上からの観測によって海王星の新衛星が発見されたのは、1949年にジェラルド・カイパーが最大の不規則衛星であるネレイドを見つけて以来、半世紀以上ぶりの快挙でした。サオのように非常に暗く、主星から遠く離れた軌道を周回する衛星は、ボイジャー2号が海王星を通過した際にはその存在を確認できなかったと考えられています。

命名と由来

正式な命名は、発見から数年後の2007年2月3日に行われました。この際、サオという名称が国際天文学連合によって承認され、同時に海王星の第11衛星としてNeptune XIという確定番号が与えられました。

サオという名前は、ギリシア神話に登場するネレイデスの一人に由来しています。ネレイデスは海の神ネレウスの娘たちであり、穏やかな海の精霊とされています。サオー（Sao）という名前は、特に航海に関連が深く、「救出者」や「安全」といった意味合いを持っています。

特徴と軌道

サオは、海王星の自転方向と同じ向きに公転する「順行軌道」を持つ衛星ですが、主星から大きく離れた軌道を巡る「不規則衛星」に分類されます。興味深いことに、同時期に発見されたラオメデイア、そして2024年に発見が公表されたS/2002 N 5|S_2002 N 5という別の衛星と、非常に似た軌道要素を持っていることが観測から明らかになっています。

木星や土星のような巨大惑星の周囲には、軌道長半径や軌道傾斜角が類似した不規則衛星がいくつかのグループを形成している例が多く見られます。このようなグループに属する衛星は、表面の組成や特徴も似ている傾向があり、これはかつて存在したより大きな母天体が、天体衝突などによって破壊された破片である可能性を示唆しています。サオとラオメデイアが似た軌道を持つことから、海王星の不規則衛星にも同様のグループが存在する可能性が以前から指摘されていましたが、S/2002 N 5|S_2002 N 5の発見により、これら三つの衛星がまとまって「サオ群 (Sao group)」として認識されるようになりました。

サオ自体の物理的な大きさは、正確には測定されていませんが、表面のアルベド（反射率）を0.04と仮定した場合、直径はおよそ44キロメートルと推定されています。その形成過程については、他の巨大惑星の不規則衛星と同様に、海王星形成後の初期段階で、比較的大きな衛星が小惑星や彗星のような他の天体と衝突し、その際に生じた破片の一つがサオになったと考えられています。ただし、海王星最大の不規則衛星であるネレイドとの衝突確率が比較的高い（太陽系年齢の間に41%）と推定されている他の衛星（例えばハリメデ）と比較すると、サオとネレイドが衝突する確率は約1.6%と低く、他の不規則衛星との衝突確率はさらに無視できるほど小さいと計算されています。

また、サオの軌道は「古在共鳴」と呼ばれる軌道力学的な現象を起こしていることが知られています。これは、軌道運動に伴って軌道の離心率（円からのずれ）と軌道傾斜角（主星の赤道面からの傾き）が周期的に相互変換される現象です。具体的には、軌道傾斜角が減少すると軌道離心率が増加し、逆に軌道傾斜角が増加すると軌道離心率が減少するというように、二つの要素が対になって変化します。この共鳴は、衛星の軌道を長期間にわたって不安定にする要因となり得ますが、同時に特定の範囲内に軌道を維持させる効果も持ち得ます。

サオは、遠方の不規則衛星であり、その詳細な物理的特徴や内部構造についてはまだ多くのことが分かっていません。今後の観測によって、この興味深いうんぬん衛星群の一員であるサオの素顔がさらに明らかになることが期待されます。

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