サバニ

サバニ（鱶舟）とは

サバニは、南西諸島で古くから使われてきた伝統的な漁船の名称です。数人が乗船でき、荷物を積むことも可能なサイズで、帆漕レースの規定では長さ4.5メートルから9メートル、幅1.5メートル以内と定められています。推進方法は、櫂（かい）である「エーク」や「ウェーク」、四角い帆（フー）、そしてエンジンがあります。近年ではエンジン推進が主流となっていますが、伝統的な帆漕技術は失われつつあります。

サバニの特徴

独特な形状の「エーク」

サバニの推進に用いられる「エーク」は、独特な形状をしています。漕ぐだけでなく、帆走時には舵としても使われるのが特徴です。

帆（フー）と手綱（ティエンナ）

サバニには、四角い帆（フー）が使われます。帆には、バテン（帆桟＝フーザン）と呼ばれる帆の形状を調節する部材が取り付けられており、手綱（ティエンナ）で帆を制御します。

船体の構造

船底は厚く、舷側は薄く造られており、網にかかった魚の引き揚げに便利で、動揺・転覆時の復原性が高い構造となっています。また、荒天時には船を半沈させて嵐をやり過ごし、その後再び船を起こして内部の水をかき出すといった使用法も考慮されています。

サバニの歴史

琉球王国時代

かつて琉球では丸木舟が造られていましたが、森林保護のため、琉球王国が木板を張り合わせた「ハギ舟」を奨励したことから、サバニが発達しました。糸満市では、鮫（鱶）を指す「サバ」と、舟を意味する「ンニ」が合わさって「サバニ」と呼ばれるようになったと伝えられています。

漁業での活躍

サバニは、フカヒレ採取のために鮫を追い回せるように、小回りが利き、速い舟へと改良されていきました。また、船底が厚く、舷側が薄い構造は、網にかかった魚の引き揚げに便利で、動揺・転覆時の復原性も高かったため、遠洋漁業にも利用されました。糸満漁民は、沖縄諸島、先島諸島や奄美群島まで遠洋漁業の出稼ぎをしていたことが知られています。

戦前

第二次世界大戦前には、沖縄県のサバニ大工がサイパン島などに渡り、「南洋サバニ」を広めた時期もありました。また、漁業以外にも、日常の荷物運搬など、生活に欠かせない足としても活躍しました。

久松五勇士

日露戦争の際、バルチック艦隊発見の知らせを伝えるために、5人の漁師が宮古島から石垣島まで漕破したとされる久松五勇士のエピソードでも、漁師たちが漕いだのはサバニでした。

造船技術

ハギ舟

サバニは、明治以降にハギ舟となりましたが、刳り船の性格も残しています。細長い船体形状は、船速の向上と横揺れに強い性質を両立させています。一方で、非常に安定性を欠く船でもあり、簡単に転覆するリスクもあります。

素材

エークには、海水の比重に適合し、かつ適度な強度を併せ持つモッコクが使われます。

帆の調整

帆桟（フーザン）と呼ばれる帆の形状を調節するバテンを持ち、マストの位置も微調整が効く構造となっています。

耐食性

木造サバニの場合、船体の耐食性を高めるためにサメの肝油を塗ることもあり、帆を豚の血液で染めることで布地の通気性を抑え、風を受け止める能力を高めていました。

サバニの伝播

サバニは、糸満漁民の奄美大島近海での操業によって、奄美大島にも伝わりました。奄美大島では、サバニの優れた船形と、従来の木造船「イタツケ」の造船技術を取り入れ、凌波性と経済性に優れた「アイノコ」が考案されました。

現代のサバニ

FRP製サバニ

現代のサバニは、繊維強化プラスチック（FRP）製の船体にエンジンを搭載したものが主流です。木造サバニや帆走サバニはほとんど残っていません。

サバニ・ピース・コネクション

1995年、喜納昌吉によって提唱された「黒潮祈りの巡礼　サバニ・ピース・コネクション」は、手漕ぎおよび帆走によって、伝統的なサバニの外洋航行能力を広く再認識させることとなりました。終戦50周年を祈念し、沖縄と広島・長崎を結ぶ平和ムーブメントとして実施され、多くの人々を感動させました。

サバニレース

「サバニ・ピース・コネクション」の航海に触発され、沖縄各地でサバニレースが開催されるようになりました。毎年恒例のレースもあり、定着しています。

サバニ帆漕レース

2000年の九州・沖縄サミットを記念して開催された「サバニ帆漕レース」は、その後も毎年開催されており、県内外から多くの参加者を集めています。

新造船

2017年には、約60年ぶりとなる木造のサバニの新造船「遙龍（はる）」が進水しました。

サバニの活用

レース以外にも、シーカヤック、カヌー、ヨットのような体験型観光やエコツーリズムにサバニを活用することで、操船・造船技術を残そうという動きもあります。

まとめ

サバニは、南西諸島の歴史と文化を象徴する伝統的な漁船です。その独特な構造や造船技術は、先人たちの知恵と工夫の結晶と言えるでしょう。現代においては、平和運動やレース、観光など、さまざまな形でその存在が再認識されています。

脚注

白石勝彦『沖縄の舟サバニ』（1985年、白石勝彦住空間設計室刊）
出口晶子『丸木舟』

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