サルモーネウス

ギリシア神話におけるサルモーネウスは、風神アイオロスとエナレテーの間に生まれた息子であり、クレーテウス、シーシュポス、アタマースといった名だたる人物たちと兄弟にあたります。彼は元来テッサリアー地方の出身でしたが、後にエーリス地方へと移り住み、そこで王として君臨しました。家族としては、アレースの娘アルキディケーとの間に娘テューローをもうけた後、シデーローを後妻に迎えています。

サルモーネウスの生涯で特筆されるのは、大神ゼウスに対する極めて傲慢な態度です。彼はゼウスに匹敵する、あるいはそれ以上の存在になろうと望んだのか、自らをゼウスであると宣言し、人々に対してゼウスに捧げられるべき供物を自分に捧げるよう命じました。さらに、ゼウスの雷鳴や雷を模倣する奇行に及んだと伝えられています。ある伝承では、彼は青銅製の釜を戦車に乗せて引きずり、その際に生じる轟音を雷鳴に見立てたと言われます。また、燃え盛る松明を空に向けて投げつけることで、雷を装ったともされています。

こうした神への不敬極まりない振る舞いは、当然ながら大神ゼウスの激しい怒りを招きました。シケリアのディオドーロスによれば、ゼウスは雷霆を放ち、サルモーネウス本人だけでなく、彼がアルペイオス川畔に築いたとされる都市サルモニアと、そこに暮らす人々をも滅亡させたということです。ヒュギーヌスの伝えるところでは、サルモーネウスが雷の真似をして人々に火のついた松明を投げつけていたまさにその時、ゼウスの雷に打たれ、戦車ごと絶命したとされています。さらに、叙事詩人ウェルギリウスの作品では、サルモーネウスは地上での死後も、冥界タルタロスにおいて永劫の罰を受けている罪人として描かれています。ウェルギリウスの描写によれば、サルモーネウスは四頭立ての戦車で各地を走り回り、青銅の橋を馬の蹄で踏み鳴らして雷を再現しようと試みましたが、ゼウスが投げた槍によって貫かれ、地上へと頭から落下して果てたとされています。

サルモーネウスにまつわる他の逸話としては、兄弟である策略家シーシュポスとの間には、あまり良好な関係ではなかったという伝承も伝えられています。また、古代ギリシア三大悲劇詩人の一人であるソポクレースは、サルモーネウスを主題としたサテュロス劇を創作したことが知られていますが、残念ながらその内容は断片的にしか現存していません。

サルモーネウスが行った雷鳴や雷の模倣行為については、後世の研究者たちによって多様な解釈がなされてきました。特に、著名な人類学者J・G・フレイザーは、その著書『金枝篇』の中で、この行為が雨乞いの呪術であった可能性を示唆しています。神話学者アレグザンダー・クラップや詩人ロバート・グレーヴスも同様の見解を示しています。この解釈の根拠としては、古代の記録に、乾燥が続いた際に雨を願って行われた儀式が挙げられます。例えば、カリュストスのアンティゴノスは、クラーノーンという土地で、水を満たした甕を積んだ青銅製の車を走らせ、車を揺らして大きな音を立て、甕から水をこぼすことで雨を降らせたと記録しています。サルモーネウスの行いは、こうした古代の雨乞いの儀式と形式が似ているため、そのような呪術であったと推測されるわけです。加えて、インド＝ヨーロッパ語族の神話には、雷が神が天上の戦車で駆ける際に生じる音であるとする共通の観念が見られます。サルモーネウスが戦車と轟音を用いて雷を模倣した行動は、このような古代の雷神観念やそれに基づく儀礼を反映している可能性も指摘されています。

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