シーシュポス

シーシュポス：狡猾な王と永遠の徒労

シーシュポス（古希: Σίσυφος, Sīsyphos, ラテン語: Sisyphus）は、ギリシア神話に登場する、その狡猾さと神々への反抗で知られる人物です。コリントスの創建者であり、その名前は「シーシュポスの岩」という、終わりのない徒労を意味する言葉として、後世にまで語り継がれています。

生い立ちと家族

シーシュポスは、テッサリア王アイオロスとエナレテーの息子として生まれました。兄弟にはサルモーネウスやアタマースがおり、プレイアデスのひとりであるメロペーを妻に迎え、グラウコス、オルニュティオーン、テルサンドロス、ハルモスといった子供たちをもうけました。特にグラウコスは、英雄ベレロポーンの父として知られています。

コリントスの創建

シーシュポスは、エピュラーという都市を創建しましたが、この都市は後にコリントスとして知られるようになります。一説には、魔女メーデイアからコリントスを贈られたとも伝えられています。また、彼はヘーラーによって狂気に陥れられたアタマースに追われたイーノーとメリケルテースが海に身を投げたことを悼み、イストミア大祭を創始したとも言われています。

神話におけるシーシュポス

ペイレーネーの泉

シーシュポスは、ゼウスが河神アーソーポスの娘アイギーナを誘拐した際、その居場所をアーソーポスに教えたことで知られています。彼はアーソーポスに対し、コリントスに涸れない泉を作ることを条件に、アイギーナの居場所を教えました。アーソーポスがペイレーネーの泉を湧き出させると、シーシュポスはゼウスとアイギーナの居場所を明かしました。このペイレーネーの泉は、後にベレロポーンがペーガソスを馴らした場所としても有名です。

テューローとの関係

シーシュポスは、兄弟であるサルモーネウスがテッサリア王になったことに不満を抱き、デルポイの神託所に伺いを立てます。そこで、「姪と交わり子供をもうければ、その子供たちが恨みを晴らしてくれるだろう」というお告げを受けます。シーシュポスは、そのお告げに従い、サルモーネウスの娘テューローを誘惑します。しかし、テューローはシーシュポスの行為が自分への愛情からではなく、サルモーネウスへの憎しみからであることに気づき、生まれた二人の子供を自らの手で殺害します。

死への抵抗

シーシュポスは、ゼウスの密告を行ったとして、死神タナトスによって冥府に連行されることになりました。しかし、シーシュポスはタナトスを言葉巧みに騙し、彼を捕らえてしまいます。タナトスが捕らえられたため、誰も死ぬことができなくなり、戦いの神アレースが困り果ててタナトスを救出し、シーシュポスを捕らえました。シーシュポスは、その際に妻メロペーに自分の葬儀をしないように言い含めていました。冥府に連れてこられたシーシュポスは、ペルセポネーに葬儀が済んでいないことを訴え、復讐のために三日間だけ生き返らせてくれと頼みました。しかし、この世に戻ったシーシュポスは、ペルセポネーとの約束を反故にし、地上に居座り続けたため、ヘルメースによって再び冥府に連れ戻されることとなりました。

シーシュポスの岩

神々を二度も欺いたシーシュポスは、その罰として、冥府タルタロスで巨大な岩を山頂まで押し上げるという永遠の苦役を課せられました。しかし、岩は山頂に達する寸前で必ず転がり落ちてしまい、その苦役は永遠に繰り返されます。このことから、「シーシュポスの岩」は、終わりのない徒労の象徴として語り継がれるようになりました。シーシュポスの末路を恥じたメロペーは、夜空から姿を隠したとされています。

シーシュポスとアウトリュコス

シーシュポスがコリントスにいた頃、その近くには盗みの名人アウトリュコスが住んでいました。アウトリュコスは、シーシュポスの家畜をたびたび盗んでいましたが、姿を変える力を持っていたため、誰にも犯行を特定されませんでした。しかし、シーシュポスは家畜の蹄の内側に「SS」という頭文字を刻み、アウトリュコスの盗みを暴きました。アウトリュコスとの間に生まれた娘、アンティクレイアはラーエルテースの妻となり、オデュッセウスを産んだとされています。

系図

（系図の画像や表を追加）

ギャラリー

（シーシュポスを題材にした絵画や彫刻の画像を追加）

参考文献

アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫（1953年）
オウィディウス『変身物語（上）』中村善也訳、岩波文庫（1981年）
『オデュッセイア / アルゴナウティカ』松平千秋・岡道男訳、講談社（1982年）
パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎（1991年）
ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫（2005年）
高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店（1960年）
カール・ケレーニイ『ギリシアの神話　英雄の時代』植田兼義訳、中公文庫（1985年）
ロバート・グレーヴス『ギリシア神話 （上）』高杉一郎訳、紀伊国屋書店（1962年）

関連項目

シーシュポスの神話 - アルベール・カミュ
アクロコリントス
* イストミア大祭

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