サン・ピエトロ多翼祭壇画
『サン・ピエトロ多翼祭壇画』は、盛期ルネサンスの巨匠ピエトロ・ペルジーノが1496年から1498年にかけて制作した祭壇画です。この作品は、ペルージャのサン・ピエトロ教会のために制作され、中央の主祭壇画「キリストの昇天」を中心に、リュネット、2点のトンド、そして11点のプレデッラで構成されていました。現在、これらの板絵は解体され、各地の美術館に分散して所蔵されています。
祭壇画の主題は、新約聖書「使徒言行録」1章に記述されるキリストの昇天です。復活したイエス・キリストは、オリーブ山で弟子たちに自身の存在を示し、40日間にわたり神の国について語りました。その後、弟子たちが見守る中、キリストは天に昇り、雲の中に消えていきました。弟子たちが天を見上げていると、白い服を着た二人の人物が現れ、「なぜ天を仰いで立っているのか。天に上げられたイエスは、天に上った姿と同じように再び来るだろう」と告げました。
主祭壇画の額縁と板絵の制作契約は、1493年8月26日にベネディクト会の修道士によってオリベット会の修道士ジョヴァンニ・ディ・ドメニコに委託されました。その後、ペルジーノは1495年3月8日に主祭壇画を制作する画家として契約し、1496年1月18日から1498年4月23日にかけて報酬を受け取りました。祭壇画の主題は、ベネディクト会の指示に従っています。この依頼によって、ペルジーノは中央の主祭壇画「キリストの昇天」、その上のリュネットに「栄光の神」、2点のトンド「預言者エレミヤ」と「預言者イザヤ」、そして祭壇の基壇部側面を飾る11点のプレデッラを制作しました。完成した絵画は1500年1月13日に主祭壇に設置されました。
主祭壇画とリュネットは、画面中央を通る軸を中心としたシンメトリーの構図を持っています。主祭壇画は上下に二分割されており、上部には黄金色のマンドルラとケルビムに囲まれながら昇天するキリストが描かれています。キリストの両側には、4人の天使がヴァイオリン、リュート、ハープなどの楽器を演奏しており、さらに2人の天使がリボンを持って飛んでいます。下部には、聖母マリアと十二使徒が、天に昇るキリストを見上げる姿が描かれ、背景にはペルジーノ特有の穏やかなウンブリア地方の丘陵風景が広がっています。この構図は、ペルジーノが以前にシスティーナ礼拝堂に描いたフレスコ画「聖母被昇天」を参考にしていると考えられています。各人物は古典的な理想美を思わせる穏やかな表情で描かれ、衣服の明るく柔らかな色彩は、人物に優雅で記念碑的な印象を与えています。
リュネットの「栄光の神」は、「キリストの昇天」の真上に配置されています。中央に描かれた父なる神は、「キリストの昇天」の光景を見下ろすように視線を向け、右手を上げて祝福しています。神の両側には、2人の天使と多くのケルビムが飛翔しています。
トンドは円形の作品で、祭壇画を覆う扉を装飾するために制作されたと考えられています。直径は126.7センチあり、それぞれに旧約聖書に登場する預言者エレミヤ（またはダビデ）とイザヤの座像が描かれています。
プレデッラは11点制作され、そのうち3点は横長の作品で、それぞれ「東方三博士の礼拝」「キリストの洗礼」「キリストの復活」が描かれています。残りの8点は小型の作品で、キリスト教の聖人や聖女が描かれています。これらの聖人たちはベネディクト会と関わりの深い人物が多く選ばれています。例えば、聖ベネディクトゥスはウンブリア地方のヌルシア出身でベネディクト会の創設者であり、聖スコラスティカは聖ベネディクトゥスの双子の姉妹です。聖マウルスと聖プラキドゥスは、聖ベネディクトゥスを最初に信奉した人物です。また、聖ヘラクラヌスはペルージャの守護聖人であり、聖ピエトロ・ヴィンチョリはサン・ピエトロ教会の創設者、初代修道院長です。
対抗宗教改革の結果、絵画は1567年に主祭壇が解体された際に撤去され、1591年頃に解体されました。約200年後の1797年、「キリストの昇天」を含む10点の板絵がナポレオン軍によって略奪され、パリの共和国中央美術館に運ばれました。その後、これらの板絵は19世紀初頭に地方の美術館に送られました。例えば、「東方三博士の礼拝」「キリストの洗礼」「キリストの復活」の3点はルーアン美術館に、2点のトンドはナント美術館に寄託されました。また、主祭壇画「キリストの昇天」はリヨン美術館に、リュネットの「栄光の神」はパリのサン＝ジェルヴェ＝サン＝プロテ教会に寄託されました。ワーテルローの戦いでナポレオンが敗北すると、残りの3点のプレデッラはアントニオ・カノーヴァの働きによりイタリアに返還されました。「キリストの昇天」は1816年にローマ教皇ピウス7世によって、リヨン市に保管が許可されました。リュネットは1952年にリヨン美術館に収蔵されました。
金属尖筆で描かれた2点の使徒の頭部の準備素描が現存しています。そのうち1点は大英博物館に所蔵されており、もう1点はジュネーヴの個人コレクションを経て、2020年にニューヨークで高額落札されました。また、ペルジーノの工房による1505年の「サンセポルクロの祭壇画」が複製として知られています。
リュネットの構図は、ラファエロ・サンツィオの「コロンナの祭壇画」のリュネットに影響を与えていることが指摘されています。
『サン・ピエトロ多翼祭壇画』は、その壮大な構成と、ペルジーノの洗練された画風を伝える重要な作品として、美術史において重要な位置を占めています。
主題
祭壇画の主題は、新約聖書「使徒言行録」1章に記述されるキリストの昇天です。復活したイエス・キリストは、オリーブ山で弟子たちに自身の存在を示し、40日間にわたり神の国について語りました。その後、弟子たちが見守る中、キリストは天に昇り、雲の中に消えていきました。弟子たちが天を見上げていると、白い服を着た二人の人物が現れ、「なぜ天を仰いで立っているのか。天に上げられたイエスは、天に上った姿と同じように再び来るだろう」と告げました。
制作経緯
主祭壇画の額縁と板絵の制作契約は、1493年8月26日にベネディクト会の修道士によってオリベット会の修道士ジョヴァンニ・ディ・ドメニコに委託されました。その後、ペルジーノは1495年3月8日に主祭壇画を制作する画家として契約し、1496年1月18日から1498年4月23日にかけて報酬を受け取りました。祭壇画の主題は、ベネディクト会の指示に従っています。この依頼によって、ペルジーノは中央の主祭壇画「キリストの昇天」、その上のリュネットに「栄光の神」、2点のトンド「預言者エレミヤ」と「預言者イザヤ」、そして祭壇の基壇部側面を飾る11点のプレデッラを制作しました。完成した絵画は1500年1月13日に主祭壇に設置されました。
作品
主祭壇画とリュネットは、画面中央を通る軸を中心としたシンメトリーの構図を持っています。主祭壇画は上下に二分割されており、上部には黄金色のマンドルラとケルビムに囲まれながら昇天するキリストが描かれています。キリストの両側には、4人の天使がヴァイオリン、リュート、ハープなどの楽器を演奏しており、さらに2人の天使がリボンを持って飛んでいます。下部には、聖母マリアと十二使徒が、天に昇るキリストを見上げる姿が描かれ、背景にはペルジーノ特有の穏やかなウンブリア地方の丘陵風景が広がっています。この構図は、ペルジーノが以前にシスティーナ礼拝堂に描いたフレスコ画「聖母被昇天」を参考にしていると考えられています。各人物は古典的な理想美を思わせる穏やかな表情で描かれ、衣服の明るく柔らかな色彩は、人物に優雅で記念碑的な印象を与えています。
リュネットの「栄光の神」は、「キリストの昇天」の真上に配置されています。中央に描かれた父なる神は、「キリストの昇天」の光景を見下ろすように視線を向け、右手を上げて祝福しています。神の両側には、2人の天使と多くのケルビムが飛翔しています。
トンド
トンドは円形の作品で、祭壇画を覆う扉を装飾するために制作されたと考えられています。直径は126.7センチあり、それぞれに旧約聖書に登場する預言者エレミヤ（またはダビデ）とイザヤの座像が描かれています。
プレデッラ
プレデッラは11点制作され、そのうち3点は横長の作品で、それぞれ「東方三博士の礼拝」「キリストの洗礼」「キリストの復活」が描かれています。残りの8点は小型の作品で、キリスト教の聖人や聖女が描かれています。これらの聖人たちはベネディクト会と関わりの深い人物が多く選ばれています。例えば、聖ベネディクトゥスはウンブリア地方のヌルシア出身でベネディクト会の創設者であり、聖スコラスティカは聖ベネディクトゥスの双子の姉妹です。聖マウルスと聖プラキドゥスは、聖ベネディクトゥスを最初に信奉した人物です。また、聖ヘラクラヌスはペルージャの守護聖人であり、聖ピエトロ・ヴィンチョリはサン・ピエトロ教会の創設者、初代修道院長です。
来歴
対抗宗教改革の結果、絵画は1567年に主祭壇が解体された際に撤去され、1591年頃に解体されました。約200年後の1797年、「キリストの昇天」を含む10点の板絵がナポレオン軍によって略奪され、パリの共和国中央美術館に運ばれました。その後、これらの板絵は19世紀初頭に地方の美術館に送られました。例えば、「東方三博士の礼拝」「キリストの洗礼」「キリストの復活」の3点はルーアン美術館に、2点のトンドはナント美術館に寄託されました。また、主祭壇画「キリストの昇天」はリヨン美術館に、リュネットの「栄光の神」はパリのサン＝ジェルヴェ＝サン＝プロテ教会に寄託されました。ワーテルローの戦いでナポレオンが敗北すると、残りの3点のプレデッラはアントニオ・カノーヴァの働きによりイタリアに返還されました。「キリストの昇天」は1816年にローマ教皇ピウス7世によって、リヨン市に保管が許可されました。リュネットは1952年にリヨン美術館に収蔵されました。
素描・複製
金属尖筆で描かれた2点の使徒の頭部の準備素描が現存しています。そのうち1点は大英博物館に所蔵されており、もう1点はジュネーヴの個人コレクションを経て、2020年にニューヨークで高額落札されました。また、ペルジーノの工房による1505年の「サンセポルクロの祭壇画」が複製として知られています。
影響
リュネットの構図は、ラファエロ・サンツィオの「コロンナの祭壇画」のリュネットに影響を与えていることが指摘されています。
『サン・ピエトロ多翼祭壇画』は、その壮大な構成と、ペルジーノの洗練された画風を伝える重要な作品として、美術史において重要な位置を占めています。
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