ザーウミ

ザーウミ:意味を超えた言語実験



ザーウミ(ロシア語: зáумь)とは、20世紀初頭のロシア未来派人たちによって創り出された、実験的な言語形式です。この言葉は、ロシア語の接頭辞「за」(〜の向こう側に)と名詞「ум」(心、ヌース)を組み合わせた造語で、英語では「transreason」「transration」「beyonsense」などと訳されます。ザーウミは、既存の言語の意味体系から離れ、音そのものの響きやリズムに着目することで、新たな表現の可能性を追求しました。

ザーウミの特徴



ザーウミの最も顕著な特徴は、意味を持たないことです。それは、従来の言語のように具体的な対象や概念を指し示すのではなく、音の連なり自体が持つ独自の美しさや感情を表現しようとします。ザーウミは、既存の文法や構文規則に縛られることなく、自由な発想で構成されます。その構成要素は、音の類似性やリズムのパターン、時にはオノマトペや精神病理学的な状態を連想させるものも含まれますが、それらは具体的な意味に結び付けられることはありません。

ザーウミの創始者と目的



ザーウミの創始者として知られるのは、アレクセイ・クルチョーヌイフヴェリミール・フレーブニコフです。

クルチョーヌイフは、ザーウミを言語の曖昧さや不確定性を強調するために創造しました。彼は、言語は常に意味が固定されるものではなく、より流動的で混沌とした表現が可能であると考えました。彼は、ザーウミを「自然発生的で成文化されていない言語の顕現」と捉え、文法や構文規則を無視することで、生の混沌を直接的に伝えようとしました。

一方、フレーブニコフは、ザーウミの目的を、子音に内在する語根の根源的な意味を捉えることだと考えました。彼は、その意味を知ることが、理性に基づいた新しい世界共通語の創造に役立つと信じていました。

ザーウミの具体例



ザーウミの具体的な例としては、クルチョーヌイフの「ディル・ブル・シル」や、未来派オペラ「太陽の征服」の台本、フレーブニコフの「鳥類の言語」「神々の言語」「星々の言語」などが挙げられます。これらの作品は、従来の言語とは異なる、音の響きとリズムが織りなす独特の世界を表現しています。これらの的な創作物は、現代版のダダイズムとも見なされますが、その背後にある形而上学的な探求は非常に真剣なものでした。クルチョーヌイフは、原始的なスラブ母語の回復を志向し、スラブ国家神秘主義的な傾向を強く示しました。

ザーウミの広がりと影響



ザーウミは、第一次世界大戦中の1916年から1920年にかけて、視覚芸術文学、芸術マニフェスト、美学演劇グラフィックデザインなど、多岐にわたる分野で展開されました。ザーウミズムは、既存の芸術への異議申し立てや反芸術的な作品を通して、反戦運動も行いました。集会やデモ、出版物の刊行も活発に行われ、その活動は、後のアヴァンギャルド芸術やアメリカのダウンタウンの音楽運動、シュールレアリスム、ノーヴォーレアリスム、ポップアート、フルクサスなど、様々な芸術運動に影響を与えました。

現代では、1960年代からサージ・セゲイやリー・二コノヴァらがザーウミによる作を試みました。これらの作品は、サミズダートの雑誌などに掲載されています。また、1990年には、セルゲイ・ビリュコフがロシアのタンボフに「ザーウミ・アカデミー」と呼ばれる人の団体を設立しました。

ザーウミの語源と意味



ザーウミという言葉は、1913年にクルチョーヌイフによって作られました。「ザ」はロシア語の接頭辞「за」(〜の向こう側に、〜の後側に)であり、「ウミ」はロシア語の名詞「ум」(心、ヌース)に由来します。この言葉が示すように、ザーウミは、理性の向こう側、意味を超えた領域を目指す言語実験であったと言えるでしょう。

クルチョーヌイフは、1913年の『言葉そのものの宣言』の中で、ザーウミを「決定的な意味をもたない言語、理性を超越した言語」と定義し、日常会話の言語の「束縛するもの」から解放された「より充実した表現」を可能にすると主張しました。1921年の『超理性的言語の宣言』では、ザーウミを「普遍的な的言語を提供しうる」とし、「有機的に生み出されたもので、エスペラントのように人工的ではない」と述べています。

主要なザーウミスト



ヴェリミール・フレーブニコフ
アレクセイ・クルチョーヌイフ
イリヤ・ズダネーヴィチ
イーゴリ・テレンチエフ
アレクサンドル・ツファノフ
カジミール・マレーヴィチ
オリガ・ロザノワ
ワルワラ・ステパーノヴァ

ザーウミは、意味を固定化しようとする従来の言語観に対する挑戦であり、音やリズムの可能性を追求した実験的な芸術運動でした。その影響は、現代の芸術や思想にも及んでおり、いまだに多くの人々にインスピレーションを与え続けています。

もう一度検索

【記事の利用について】

タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。

【リンクついて】

リンクフリーです。