シエナのカタリナ

シエナのカテリーナ：信仰と行動の生涯

シエナのカテリーナ（1347年 3月25日 - 1380年 4月29日）は、ドミニコ会第三会の在俗修道女であり、神秘家、活動家、作家として、中世カトリック教会とイタリア文学に大きな足跡を残しました。1461年に列聖され、教会博士にも列せられています。

生涯の概要

カテリーナはシエナで生まれ育ち、幼少の頃から神への献身を志しました。敬虔な女性たちの団体「マンテラーテ」に加入し、ドミニコ会にも非公式に入信。その影響力は教皇グレゴリウス11世にも及び、教皇のアヴィニョンからローマへの帰還に一役買ったとされています。また、フィレンツェとの和平交渉にも派遣されるなど、政治的な舞台でも活躍しました。

カテリーナは、霊的著作『神の摂理についての対話』を口述筆記させました。1378年の教会大分裂に際しては、ローマへ赴き、ウルバヌス6世への服従を呼びかける手紙を多数送りました。厳しい断食生活を続け、1380年に33歳で死去。その死後、彼女を巡る信仰は急速に広まり、ローマとヨーロッパの守護聖人に指定されています。

生い立ちと信仰への道

カテリーナは、染物職人の父と詩人の娘を母として生まれました。幼い頃から神への強い憧れを抱き、5、6歳の頃にはキリストの幻を見たと言われています。7歳で神に人生を捧げることを誓い、16歳で姉の死をきっかけに結婚を拒否し、断食や髪を切るなどの厳しい行動で両親に抵抗しました。家族の反対を押し切り、ドミニコ会の規範に従って修道院外での信仰生活を送ることを選びました。マンテラーテで文字を学びながら、自宅では隠遁者のように孤独な生活を送りました。

神秘体験と社会活動

21歳頃には、イエスとの「神秘の結婚」を経験したとされています。これは、芸術作品のモチーフとしても広く知られています。また、キリストから人々のために尽くすよう告げられ、病人や貧しい人々の世話をするようになりました。その活動は多くの賛同者を集め、社会的、政治的な問題にも関心を向けるようになりました。1374年にはフィレンツェへ赴き、ドミニコ会から審問を受けたとされています。この頃から聴罪司祭であり、霊的指導司祭のライモンド・ダ・カプアが彼女の傍らにいました。

政治への関与と教皇との関係

カテリーナは、イタリア北部と中部を巡り、聖職者の改革を提唱し、悔い改めを説きました。1375年には反教皇派の勢力に対抗し、十字軍の立ち上げを推進しました。また、教皇グレゴリウス11世と文通を重ね、教皇領の改革を求めました。1376年にはアヴィニョンへ赴き、教皇のローマ帰還を働きかけました。これは、アヴィニョン捕囚の終焉へと繋がりました。帰還後、1377年には女性修道院を設立し、平和構築と説教に励みました。

教会大分裂と死

1378年の教会大分裂では、カテリーナはウルバヌス6世を支持し、貴族や枢機卿たちにその正当性を訴えました。しかし、ウルバヌス6世の強硬な姿勢が事態を悪化させ、カテリーナの仲裁は失敗に終わりました。長年にわたる厳しい禁欲生活は彼女の身体を蝕み、1380年に33歳で生涯を閉じました。

信仰と著作

カテリーナの神学は、キリスト教神秘主義に基づいています。彼女は、神との霊的融合を求め、断食や禁欲を実践しました。特に聖餐は、彼女の神秘体験における重要な要素でした。著書『神の摂理についての対話』では、神を「海」に例え、人間をその中の「魚」として捉え、神と人間の関係性を体系的に説明しています。彼女の著作は、理性や論理だけでなく、神秘的な経験に基づいている点が特徴です。

崇敬と遺産

カテリーナは、死後、奇跡が報告されたことで、信仰が広まりました。1461年に列聖され、1866年にはローマの守護聖人に、1999年にはヨーロッパの守護聖人の一人に指定されました。彼女の遺体はサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会に埋葬されましたが、頭部はシエナに運ばれ、聖ドミニコ大聖堂に安置されています。

カテリーナの著作は、400通に及ぶ手紙、霊的著作『対話』、そして26編の祈りがあります。彼女の書簡は、初期トスカーナ文学の重要な作品とされ、教皇への手紙では、愛情を込めて「お父ちゃん」と呼びかけました。

後世への影響

カテリーナは、教会の中でも神秘主義者、霊的著作家として高く評価されています。政治的な舞台でも重要な役割を果たした女性として、歴史にその名を刻みました。彼女の生涯と著作は、現代の私たちにも信仰と行動のあり方について多くの示唆を与え続けています。

主な聖域

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会（ローマ）：遺体が安置されている場所
聖ドミニコ大聖堂（シエナ）：頭部が安置されている場所
カテリーナの聖域（シエナ）：生誕地の周辺に建てられた複合施設

主要な著作

『神の摂理についての対話』
『書簡集』
『祈り』

これらの著作は、彼女の神秘的な思想、信仰への情熱、そして社会への貢献を伝える貴重な資料となっています。