シグナス NG-16

シグナス NG-16は、ノースロップ・グラマン社が開発・運用する無人宇宙補給機シグナスによる、国際宇宙ステーション（ISS）への物資輸送ミッションの一つです。アメリカ航空宇宙局（NASA）との商業補給サービスフェーズ2（CRS-2）契約に基づき実施されたこのミッションは、シグナスとしては16回目、ISSへの商業補給ミッションとしては15回目の飛行にあたります。

開発と経緯

この商業補給プログラムは、オービタルATK社（後にノースロップ・グラマン・イノベーション・システムズの一部となる）とNASAが共同で進めた商業軌道輸送サービス（COTS）計画の中で生まれました。物資輸送を担うシグナス宇宙船は、オービタルATKが開発した中型ロケット「アンタレス」によって打ち上げられます。シグナス宇宙船自体は、パートナー企業であるタレス・アレーニア・スペースが製造する与圧貨物モジュールと、オービタルGEOStar衛星バスを基盤としたサービスモジュールから構成される先進的な設計が採用されています。

NG-16ミッションは、CRS-2契約下で実施されたシグナス補給ミッションとしては5回目にあたります。シグナス宇宙船の製造と組み立ては、バージニア州ダレスで行われました。打ち上げ時には、ここで製造されたサービスモジュールと与圧貨物モジュールが結合されました。ミッション全体の管制は、バージニア州ダレスとテキサス州ヒューストンにある管制センターから行われました。

ミッション詳細

シグナス NG-16は、2021年8月10日22時01分05秒（UTC）に、ISSでの約90日間にわたる滞在ミッションに向けて打ち上げられました。使用されたシグナス宇宙船は、拡大された与圧貨物モジュール（PCM）を備えたモデルとしては13回目の飛行でした。ノースロップ・グラマンは、この宇宙船を、アジア系アメリカ人として初めて宇宙飛行を達成したエリソン・オニヅカ宇宙飛行士に敬意を表して命名しました。

搭載貨物と科学実験

シグナス NG-16には、ISS滞在クルーのための補給品、科学研究機材、宇宙船運用に必要なハードウェアなど、合計3,723 kg（約8,208ポンド）の貨物が搭載されました。主な内訳は以下の通りです。

- 乗組員の補給品：約1,396 kg
- 科学調査関連：約1,064 kg
- 宇宙船ハードウェア：約1,037 kg
- 非与圧貨物：約48 kg
- コンピューター関連資材：約44 kg
- 船外活動（EVA）装備：約15 kg

このミッションでは、いくつかの重要な科学実験および技術実証が行われました。

4ベッド二酸化炭素除去機: NASAのマーシャル宇宙飛行センターが開発した、ISS内の空気から二酸化炭素を除去する次世代型の装置です。
流動沸騰凝縮実験（FBCE）: NASAグレン研究センターが実施した、微小重力環境下での熱流体の挙動に関する実験です。
液体統合ラック（FIR）の再構成: 同様にNASAグレン研究センターによる、ISSの液体実験設備の改修作業です。
ケンタッキー再突入プローブ実験（KREPE）: ケンタッキー大学による実験で、シグナス宇宙船が軌道離脱する際、超音速で大気圏に再突入する3つのカプセルを放出しました。各カプセルは再突入時の高温から機体を守る熱シールドを備えており、ミッションの目的は、この熱シールドの性能に関する熱データを収集することでした。この実験はNG-16ミッションの最後に行われました。
プロトタイプ赤外線ペイロード（PIRPL）: 宇宙開発局（SDA）およびミサイル防衛局（MDA）向けにノースロップ・グラマンが製造した、ミサイル追跡用の試験的な赤外線センサーです。SDAが構築を計画している追跡衛星コンステレーションを支援するための技術実証として位置づけられました。シグナス宇宙船はISSを離脱する前にPIRPLを放出し、このセンサーを用いて観測を行いました。収集された赤外線データは、次世代のミサイル追跡衛星設計に活用され、特に近年開発が進む極超音速ミサイルの探知・追跡能力向上に役立つことが期待されています。
SEOPSスリングショット展開システム: ISSから離れた後、シグナス宇宙船からCubeSatを放出するためのシステムです。500km程度の軌道に小型衛星を展開する能力を示しました。

ISSからの離脱とミッション終了

ISSに約3ヶ月間滞在し、その役割を終えたシグナス NG-16は、2021年11月20日16時01分（UTC）にカナダアーム2ロボットアームから解放され、ISSを離れました。解放時、ISSは南太平洋上空約420kmを飛行していました。ISSからの離脱に先立ち、11月18日には搭載していたSTP-H6実験装置をISSの船外プラットフォームに取り付ける作業が行われています。

ISSを離れた後、シグナス宇宙船は搭載していたKREPE実験などの最終段階を実行しました。そして、ISSクルーが詰め込んだ廃棄物を満載した状態で軌道を離脱し、制御された破壊的再突入を行ってミッションを終了しました。

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