シャバク人

イラク北部に居住するシャバク人は、独自の文化と歴史を持つ民族集団です。彼らは主にニナワ平野、特にモースルの東方に位置するおよそ35の集落に集まって暮らしており、クルド人の一部とも認識されています。使用する言語は、ザザ・ゴラニ語に分類されるシャバク語ですが、社会に統合された一部のクルド系部族は北部クルド語（クルマンジー）を話し続けています。

起源とアイデンティティ

「シャバク」という名の由来は明確ではありませんが、アラビア語で「撚り合わせる」を意味する言葉に由来するという説があり、多様な部族が融合して形成された集団であることを示唆しています。歴史的な起源としては、14世紀初頭にクルド人の神秘主義者サフィーッディーン・イスハーク・アルダビーリーが設立したサファヴィー教団の信者に遡ると考えられています。しかし、アナトリア半島のトルクメン人が強制移住させられたという説も存在しており、その出自については諸説あります。歴史学者オースティン・ヘンリー・レヤードは、彼らをイラン起源のクルド人の子孫とみなし、アリー・イラーヒー派との関連性を指摘しています。

彼らのアイデンティティは近年、外部からの圧力によって揺さぶられてきました。イラク政府は過去にシャバク人に対し、アラブ人あるいはクルド人としてアイデンティティを抑圧することを強いてきました。あるシャバク人の言葉が示すように、「もし私たちがアラブ人なら、なぜ故郷から移送されるのか」という疑問は、彼らが直面してきた複雑な状況を物語っています。クルド人同胞であるという主張がシャバク人の政治家からなされる一方で、モースル地域のシャバク人居住区をクルド地方政府の管轄に編入することへの反対意見も根強く存在しており、所属やアイデンティティを巡る議論が続いています。

信仰

シャバク人の信仰は、タイファと呼ばれる宗教的コミュニティの中で継承されています。大多数がシーア派イスラムを自認していますが、その信仰内容は非常に独特で、近隣のイスラム教徒とは異なる特徴を持っています。彼らの信仰は、イスラム教、キリスト教、ヤズィーディー教の要素が融合したシンクレティズム（混合宗教）の性格が強く表れており、例えばキリスト教の告解に似た儀式や、アルコールの摂取、ヤズィーディーの聖地への巡礼といった行為が見られます。同時に、シーア派の聖地であるナジャフやカルバラーへの巡礼も行い、シーア派の教義も実践しています。

シャバク人の信仰において重要な文献とされるのが、トルクメン語で記された「ブイルーク」、あるいは「キタブ・アル＝マナキブ（模範行為の書）」です。彼らはスーフィズムの要素を取り入れ、クルアーンの表面的な解釈を超えた独自の「神的現実」の理解を重視しています。霊的な指導者は「ピルス」と呼ばれ、最高指導者である「バーバ」のもとに組織されています。ピルスは神的な力と一般信徒の間の仲介者とみなされており、このような構造や信仰の混合性は、ヤルサーン信仰との類似性が指摘されています。さらに、サファヴィー朝の創始者イスマーイール1世の詩を神の啓示と見なし、宗教集会で朗唱することもあります。

人口と近年の苦難

シャバク人の人口に関する推計は時代によって大きく変動しています。1925年には約10万人とみられていましたが、1970年代には約1万5千人に減少したと推計されています。しかし、近年の推計では50万人から55万人程度に増加しているとされており、その正確な規模の把握は難しい状況にあります。

近年のシャバク人の歴史は、度重なる苦難に彩られています。特に、1988年のアンファル作戦や1991年の難民危機に際しては、大規模な強制移送を経験しました。多くのシャバク人がザンガネ人やハウラミ人とともに、クルディスタン地域内に設けられた収容所へと移送され、この過程で多数の犠牲者が出たと推定されています。さらに、2014年にはISIL（ISIS）による北部イラクへの侵攻によって故郷を追われましたが、イラク政府軍やペシュメルガによる地域の奪還後、徐々に帰還が進んでいます。しかし、故郷に戻った後も、アイデンティティを巡る政治的な圧力や土地の問題、そして様々な武装勢力との対立など、不安定な状況が続いています。2017年の時点では、イラク政府やクルド人勢力との間で緊張関係にあることが報告されています。

このように、シャバク人は独自の言語と宗教文化を持ちながらも、歴史的に外部勢力からの圧力に晒され、アイデンティティ、居住地、そして安全を巡る困難な状況に置かれています。

もう一度検索