シャン州軍 (南)

シャン州軍 (南)（SSA-S）

シャン州軍 (南)（Shan State Army – South, 略称: SSA-S）は、ミャンマー連邦共和国に存在する主要な民族武装勢力の一つであり、政治部門であるシャン州復興評議会（Restoration Council of the Shan State, 略称: RCSS）の軍事組織としての役割を担っています。正式名称は単に「シャン州軍」（Shan State Army）ですが、同じ名称を冠するシャン州軍 (北)と区別するため、一般的にはSSA-S、あるいは政治部門と併せてRCSS/SSAとして言及されることが多くあります。シャン語では「タイ州の軍隊」を意味する言葉で呼ばれています。

歴史

SSA-Sの起源は1996年1月に遡ります。当時、麻薬王とも称されたクン・サ率いるモン・タイ軍（MTA）は弱体化が進み、ミャンマー軍に降伏しました。しかし、MTAの司令官の一人であったヨートスックは降伏を拒否し、数百人から千人程度の兵士を率いてSSA-Sを結成しました。その後、ヨートスックは旧MTAの残存勢力を糾合し、1999年12月にタイ国境に近いロイタイレンに本部を設置しました。2000年5月には、SSA-Sの政治部門としてRCSSが設立され、ヨートスックがその議長に就任しました。

設立当初、SSA-Sは既にミャンマー政府と停戦していたSSA-Nやシャン州民族軍（SSNA）といった他のシャン系武装勢力との統合を模索しました。1996年9月には3組織合同の政治・軍事部門創設が合意されましたが、実現には至りませんでした。ミャンマー軍はSSA-Sを孤立させるため、停戦グループであったSSA-NやSSNAとSSA-Sとの対立を煽る策を講じたとされています。ミャンマー軍は1997年から1999年にかけて、SSA-Sの活動を封じ込める目的で「四断作戦」と呼ばれる、食料、資金、新兵、情報の供給源を断つ作戦を実行し、多数の国内避難民を発生させました。

2000年代には、タイ国境地域でワ州連合軍（UWSA）との衝突が発生しました。これは、麻薬対策を掲げるSSA-Sと、麻薬生産に関与しているとされるUWSAとの間の緊張によるものですが、タイ当局者からは形式的な対立との見方も示されています。また、2005年には、ミャンマー軍による武装解除に抵抗したSSNAがSSA-Sに合流し、組織体制を強化しました。一方で、2005年にはモンジェン大佐率いるSSA-S第758旅団が離脱し、最終的にミャンマー軍傘下の民兵組織となるなど、内部の分裂も経験しています。

停戦に向けた動きは2010年代に加速します。2011年にはSSA-SとSSA-Nが合同記者会見を開き、統一したシャン州軍を目指す姿勢を示しました。テイン・セイン政権下では和平プロセスが進展し、SSA-Sは2011年12月に州レベル、翌年1月には連邦レベルでの停戦合意に署名しました。この合意では、拠点や部隊の再定住地の承認、地域行政への協力、連絡事務所の設置、経済活動への支援、麻薬対策での協力など、多岐にわたる事項が取り決められました。2014年にはヨートスックがRCSS議長の辞意を表明したものの、後継者育成の遅れから留任しています。そして、2015年10月15日、SSA-Sは他の民族武装組織と共に全国停戦合意（Nationwide Ceasefire Agreement, 略称: NCA）に署名しました。

NCA署名後、合法的な活動が可能となったSSA-Sは、経済的な機会を求めてシャン州北部への進出を試みました。この動きは、同地域を拠点とするタアン民族解放軍（TNLA）や、かつて協力関係にあったSSA-Nとの間で激しい衝突を引き起こしました。特にTNLAとの戦闘は長期化し、SSA-Nも巻き込まれる形でシャン族武装組織間の対立が深まる結果となりました。SSA-Sはまた、NCA署名後もミャンマー軍や同じNCA署名組織であるパオ民族解放軍との衝突も複数回経験しています。

2021年のミャンマークーデター発生当初、ヨートスック議長は軍事政権を批判し、国民統一政府（NUG）への支持を示唆しました。しかし、その後のインタビューではNUGや国民防衛隊（PDF）に対する懐疑的な見方を表明し、軍事政権との密約疑惑が報じられるなど、立場に変化が見られました。SSA-SはNCAの枠組みに留まる姿勢を示しつつ、軍事政権との独自の交渉を進めるなど、他のNCA署名組織とは異なる動きを見せています。2021年から2022年にかけて、TNLAやSSA-N、UWSAによる攻勢を受け、SSA-Sはシャン州北部から撤退を余儀なくされました。2023年11月にはSSA-Nとの停戦が宣言されました。2024年2月には軍事政権による徴兵制施行を受けて、独自の徴兵法を発表し、18歳から45歳までの男女に6年間の兵役を義務付けるとしています。

支配領域と組織構造

SSA-Sは、主にタイ・ミャンマー国境沿いにロイタイレンを含む5つの主要拠点を有しています。これらの拠点の多くはタイの県に隣接しており、特にロイタイレンは本部が置かれ、国内避難民キャンプも存在します。組織は少なくとも10個の軍管区または旅団に分けられていますが、2021年から2022年にかけての戦闘により、シャン州北部における一部の軍管区は撤退を強いられました。政治部門であるRCSSは14の部門を持ち、そのうち民政部門が支配地域の統治を担当しています。統治は、民政訓練を受けた兵士からなる行政大隊が、作戦大隊と連携して行います。独自の警察組織はありませんが、兵士や村落の民兵が逮捕権を有しています。

RCSSは200校以上の学校を支援しており、その中にはRCSSが直接管理するシャン民族学校が100校以上含まれます。これらの学校は主にタイ国境付近に集中していますが、一部地域では教育への取り組みが弱いという指摘もあります。

経済活動として、RCSSはShan Taung Tan Cherryという名称で旅行業、宝石業、貿易業など多岐にわたる事業を行う複数の企業を設立しています。

近隣国との関係

タイ国との関係

SSA-Sはタイとの国境に拠点を持ち、シャン族とタイ族の文化的な近さから、タイとの関係が非常に深いのが特徴です。SSA-Sはタイ王室への敬意を示す活動を行っており、タイ政府からはUWSAを安全保障上の脅威と見なしていることもあり、比較的友好的な対応を受けています。秘密裏の援助が行われた可能性も指摘されています。タイ社会との間にも、メディア露出を通じて文化的親近感を醸成し、政治的・経済的援助を得る努力を行っています。本部のあるロイタイレンでは、水や食料の供給、携帯電話の電波、流通通貨など、タイ側への依存度が高い状況にあります。教育や文化面でもタイのNGOとの連携が重要です。SSA-Sはタイに移民したシャン族に対しても兵役義務を課す意向を示すなど、タイ国内のシャン族ディアスポラも活動範囲に含めています。

中国との関係

2015年のNCA署名後のシャン州北部進出の際、SSA-Sは中国に近いとされるTNLA、SSA-N、UWSAといった武装組織と繰り返し衝突しました。SSA-Sは歴史的に反共的なモン・タイ軍の系譜を継いでおり、中国政府がSSA-Sを信頼しておらず、活動を妨害したとの見方も存在します。

国内避難民の保護

SSA-Sは支配地域において国内避難民の保護を行っており、タイ国境沿いの拠点には国内避難民キャンプが設置されています。これらのキャンプへの支援は十分ではなく、多くの避難民はタイ側での不法就労を余儀なくされています。国内避難民発生の主な原因としては、ミャンマー軍による「四断作戦」やUWSAによる強制移住政策が挙げられます。近年では、2021年クーデター後に市民運動（CDM）に参加し、ミャンマー軍からの拘束を恐れて逃れてきた市民も受け入れています。

麻薬問題

SSA-Sの支配地域は黄金の三角地帯に含まれるため、麻薬生産や密輸への関与が過去には疑われていました。しかし、ヨートスック議長は麻薬対策を自治権獲得の手段と位置づけ、国際社会に反麻薬政策を強くアピールしています。テインセイン政権以降はミャンマー政府や国連薬物犯罪事務所（UNODC）との協力も進み、麻薬撲滅に向けた取り組みやケシの代替作物としてコーヒー栽培を奨励するなどの活動を行っています。毎年、国際麻薬乱用・不正取引防止デーには反麻薬キャンペーンを実施しています。

批判

SSA-Sは、強制徴募を行っているとの批判を受けています。組織側は志願兵が大多数だと主張していますが、強制徴募の事例は複数報告されています。また、過去には少年兵の使用が指摘されていましたが、2019年には少年兵を募集・使用しないとする国際的な誓約書に署名しています。

特に、2015年のNCA署名以降にシャン州北部でTNLAと衝突が繰り返される中で、SSA-Sによるタアン族の民間人に対する人権侵害が複数報告されています。学校の強制閉鎖、民間人や僧侶の拘束、略奪、暴力行為、拷問などが告発されており、中には死亡に至った事例も報告されています。SSA-S側は民間人の拘束を認める場合もありますが、虐待や殺害については否定しています。

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