シュレージエン戦争

シュレージエン戦争：プロイセンの躍進とハプスブルク帝国の苦悩

シュレージエン戦争は、18世紀中頃に勃発した、ハプスブルク帝国（オーストリア）とプロイセン王国による3度にわたる戦争の総称です。現在のポーランド南西部に位置するシュレージエン地方の帰属が争点となり、その帰趨はヨーロッパの勢力図を大きく塗り替えました。

歴史的背景：シュレージエンの価値

シュレージエン地方は、18世紀初頭において人口が多く、経済的にも繁栄した地域でした。豊かな資源と戦略的な地理的位置は、周辺諸国にとって大きな魅力でした。オーデル川上流の渓谷地帯は、ブランデンブルク、ボヘミア、モラヴィアへの進軍を容易にする要衝であり、シュレージエンを掌握した国家は、周辺地域への影響力を強めることができたのです。加えて、神聖ローマ帝国の北東部辺境に位置していたため、シュレージエンの支配権は、ポーランドやロシアのドイツへの影響力を抑制する上でも重要な意味を持っていました。

プロイセン王国は、シュレージエンへの領有権を古くから主張していました。1537年の継承条約では、シロンスク・ピャスト家が断絶した場合、ホーエンツォレルン家（プロイセン王家）が一部領土を継承することが定められていましたが、ボヘミア王（ハプスブルク家）の拒否により実現しませんでした。その後も、様々な歴史的経緯を経て、プロイセンはシュレージエンへの領有権主張を継続していきます。

オーストリア継承戦争とシュレージエン戦争

1740年、神聖ローマ皇帝カール6世の崩御により、オーストリア継承問題が勃発します。カール6世は国事詔書で長女マリア・テレジアを後継者と定めていましたが、多くの諸侯がこれを拒否。プロイセン王フリードリヒ2世はこの機会を捉え、シュレージエン侵攻を開始します（第一次シュレージエン戦争）。

プロイセン軍は、圧倒的な軍事力とフリードリヒ2世の優れた戦略によって、シュレージエンの大部分を制圧。モルヴィッツの戦いでの勝利は、プロイセンの軍事力を世界に知らしめました。その後、オーストリア継承戦争へと拡大した戦争は、イギリスの仲介により、ブレスラウ条約で終結。オーストリアはシュレージエンの大半をプロイセンに割譲することとなりました。

第二次シュレージエン戦争（1744-1745年）でもプロイセンは勝利し、シュレージエンの領有を改めて確認。この戦争では、ホーエンフリートベルクの戦い、ヘンネルスドルフの戦い、ケッセルスドルフの戦いでプロイセンの軍事力が際立ちました。

七年戦争と第三次シュレージエン戦争

マリア・テレジアはシュレージエン奪回を諦めず、フランスと同盟を結び、ロシアやスウェーデンも加わった反プロイセン同盟を形成します。これが、ヨーロッパ全土を巻き込む七年戦争の始まりでした。

第三次シュレージエン戦争（1756-1763年）は、七年戦争の一部として展開されました。この戦争では、グロース＝イェーゲルスドルフの戦い、ロスバッハの戦い、ロイテンの戦いなど、多くの激戦が繰り広げられました。プロイセンは数々の危機を乗り越え、最終的にはフベルトゥスブルク条約でシュレージエンの領有が確定しました。ロシアの女帝エリザヴェータの死と、親プロイセン派のピョートル3世の即位はプロイセンにとって大きな転機となりました。

シュレージエン戦争の影響

シュレージエン戦争の結果、プロイセンはシュレージエン地方を獲得し、ヨーロッパ列強の一角に躍り出ました。また、ドイツにおけるプロテスタント諸国の盟主としての地位を確立しました。一方、オーストリアは最も富裕な地域を失い、名声を大きく損なうこととなりました。

シュレージエン戦争は、普墺角逐の始まりを告げ、1866年の普墺戦争まで、ドイツ史に大きな影響を与えることになります。フリードリヒ2世は、「フリードリヒ大王」として後世に名を残し、その軍事力と統治能力は高く評価されました。オーストリアにとっても、この敗北は改革の契機となり、軍制改革や外交政策の転換などが行われました。

参考文献

本文中に記載されている参考文献は、シュレージエン戦争に関する研究を深める上で役立つ貴重な資料です。これらの書籍や論文を参照することで、より詳細な情報を得ることが可能です。

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