シリアの国旗

シリア国旗の歴史：変遷とデザインの背景

シリアの国旗は、幾多の歴史的変遷を経て現在のデザインに至っています。1980年に制定された現在の国旗は、赤、白、黒の水平三色旗で、中央には緑色の二つの星が配されています。しかし、このデザインに至るまでには、様々な政治的、歴史的背景が複雑に絡み合っています。

シリア最初の国旗は、1920年、ハーシム家によるシリア王国の時代に制定されました。現在のヨルダン国旗に似たデザインでしたが、緑と白の色の順序が逆で、アラブ反乱を象徴する白い七芒星が加えられていました。これはアラブ世界で初めて汎アラブ色を取り入れた国旗として注目されます。しかし、フランスの委任統治下に入ったシリアでは、この国旗は使用されず、フランス国旗を組み合わせたデザインの国旗が使用されるようになります。その後も、シリアはアラウィー派国やドゥルーズ派国などにも分割され、それぞれ異なる国旗が使用されました。

1932年には、緑、白、黒の三色旗に三つの赤い星が加わったデザインが採用されました。この三色の組み合わせは、緑が正統カリフ時代、白がウマイヤ朝、黒がアッバース朝を表し、三つの星は当初はシリアの主要地域を表していました。1944年の独立時もこの国旗が使用されました。

1958年、シリアとエジプトがアラブ連合共和国を結成すると、赤、白、黒の三色旗に緑の星が二つついた現在のデザインに似た国旗が採用されました。この二つの星は、エジプトとシリアを表していました。しかし、1961年にアラブ連合共和国が解消されると、以前のデザインに戻りましたが、1963年のバアス党クーデター後、再び赤、白、黒の三色旗に三つの星が加えられたデザインが採用されました。

1971年には、シリア、エジプト、リビアによるアラブ共和国連邦が結成され、新たな国旗が制定されましたが、この連邦は1977年に解消されました。そして、1980年、現在のデザインの国旗が正式に採用され、今日に至っています。この国旗のデザインは、アラブ連合共和国時代のデザインを踏襲しつつ、赤色の色合いが調整されています。

2011年から続くシリア内戦では、アサド政権への反政府勢力が、バアス党政権掌握以前に使用されていた1932年の国旗を「シリア革命旗」として使用しています。これは、アサド政権とバアス党の正当性を否定する意思表示と言えます。

汎アラブ色と国旗のデザイン

シリア国旗に使用されている赤、白、黒、緑の色は、汎アラブ色と呼ばれ、イエメン、エジプト、スーダン、イラクなど多くのアラブ諸国でも共通して使用されています。これらの色は、それぞれ歴史的な王朝や出来事を象徴しており、緑は正統カリフ時代やファーティマ朝、白はウマイヤ朝、黒はアッバース朝を表すとされています。赤は殉教者やヒジャーズのハーシム家を表す解釈もあります。二つの星は、アラブ連合共和国時代の二つの地域、シリアとエジプトを象徴しています。

シリア国旗のデザインは、単なる布地ではなく、複雑な歴史と政治的背景を反映した象徴と言えるでしょう。その変遷は、シリアの歴史そのものを物語っているのです。

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