シリア・セルジューク朝

シリア・セルジューク朝：十字軍と内紛の狭間で消えたセルジューク朝の地方政権

シリア・セルジューク朝は、1085年から1117年まで、現在のシリア地方を支配したセルジューク朝の地方政権の一つです。大セルジューク朝第2代スルタン、アルプ・アルスラーンの息子トゥトゥシュによって建国されました。トゥトゥシュは、それまでファーティマ朝の影響下にあったシリアに侵攻し、ダマスカスを制圧。セルジューク朝の勢力をシリアへと拡大しました。

トゥトゥシュの時代：拡大と内紛

トゥトゥシュはシリア支配の確立に尽力しました。1086年には、アナトリアで勢力を伸ばしていたスライマーン・シャーとアレッポを巡って争い、勝利を収めて領土を拡大しました。しかし、大セルジューク朝の第3代スルタン、マリク・シャーの介入により、アレッポとアンティオキアを一時的に奪われ、ダマスカスに勢力を縮小せざるを得ませんでした。

マリク・シャーの死後、トゥトゥシュは再び北シリアの支配を回復しようとしました。アレッポを拠点に半独立政権を築いていたアク・スンクルを排除し、勢力圏を拡大。しかし、1095年、大セルジューク朝の新たなスルタン、バルキヤールクと争う中で戦死しました。

分裂と十字軍の脅威

トゥトゥシュの死後、彼の息子リドワーンとドゥカークがそれぞれアレッポとダマスカスを継承し、シリア・セルジューク朝は二分されました。兄弟間の不和は深刻で、統一した対応ができないまま、第1回十字軍がシリアに進出。十字軍はアンティオキアを陥落させ、シリア・セルジューク朝は大きな脅威にさらされることになりました。

ダマスカスのドゥカークは、トゥグ・テギーンという有力なアミールに実権を握られ、十字軍への対応も不十分でした。アレッポのリドワーンもドゥカークと協力せず、結果として十字軍の進撃を許してしまいました。アンティオキア陥落後、ダマスカスはホムスのみを確保したに留まりました。

ダマスカス政権の崩壊

ドゥカークは十字軍に抵抗する意思を示さず、ゴラン高原の農村を荒らされたことをきっかけにエルサレム軍と衝突し、ダマスカス近郊の略奪を招き、民衆の支持を失っていきました。ゴドフロワ・ド・ブイヨンの死後、エルサレムに入ったボードワンを待ち伏せしようとした作戦も失敗し、トリポリのカーディーに裏切られた結果、エルサレム王国の成立を許してしまいました。

1102年のトリポリ攻撃でも敗北し、十字軍の拠点が拡大するのを防ぐことができませんでした。1104年にドゥカークが亡くなると、トゥグ・テギーンが実権を握り、ブーリー朝が成立。ダマスカス・セルジューク政権は終焉を迎えたのです。

アレッポ政権の消滅とシリア・セルジューク朝の終焉

アレッポ政権もまた、内紛と十字軍の圧迫に苦しみました。リドワーンはファーティマ朝に接近する一方で、スンナ派の支持を失いました。ニザール派（暗殺教団）を保護したことも、政権の弱体化に繋がりました。

1113年にリドワーンが亡くなると、アレッポは混乱に陥ります。リドワーンの後継者たちも短命に終わり、1117年にはイル・ガーズィー（アルトゥク朝）がアレッポを制圧。シリア・セルジューク朝は完全に崩壊しました。その後もアレッポは内紛が続き、ザンギーがアレッポを支配するまで混乱は続きました。シリア・セルジューク朝は、内紛と十字軍の台頭を前に、わずか30年余りで歴史の幕を閉じました。その短命な歴史は、中世イスラム世界の複雑な政治情勢を象徴すると言えるでしょう。

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