シロスタゾール

シロスタゾール

シロスタゾール（英: Cilostazol）は、末梢の血管の血流を改善したり、脳卒中を防いだりするために用いられるお薬の一種です。特に、足の血管が硬くなり血行が悪くなることで、歩行時に痛みなどが生じる「慢性動脈閉塞症（閉塞性動脈硬化症）」の症状を和らげたり、一度脳梗塞を起こした後に再び梗塞が起きるのを予防したりする目的で処方されます。この薬は、血液を固まりにくくする「抗血小板作用」と、血管を広げて血流を良くする「血管拡張作用」という二つの働きを持っています。日本では、大塚製薬から「プレタール」という商品名で販売されています。

近年、シロスタゾールはアルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβの脳からの排出を助ける可能性も示唆されており、アルツハイマー病の進行を抑える薬としての応用も期待されています。

作用の仕組み

シロスタゾールの主な作用は、細胞内でシグナル伝達に関わる「サイクリックAMP（cAMP）」という物質の量を増やすことにあります。具体的には、cAMPを分解する働きを持つ「ホスホジエステラーゼ3型（PDE3）」という酵素に選択的に結合し、その働きを邪魔します。PDE3の分解作用が抑えられると、細胞内のcAMPの濃度が高まります。cAMPが増えると、「プロテインキナーゼA（PKA）」という別の酵素が活性化されます。活性化したPKAは、血小板が互いにくっつき合って血栓を作るのを防ぐ指令を出したり、血管の壁にある筋肉（平滑筋）を弛緩させることで血管を広げたりします。このようにして、シロスタゾールは血小板の凝集を抑え、血管を拡張させる効果を発揮します。

臨床における使用

シロスタゾールは、慢性動脈閉塞症による足の痛み（間欠性跛行）や潰瘍などの症状を改善するために使われます。また、脳梗塞、特に心臓に原因がないタイプのラクナ梗塞などの再発予防にも広く用いられています。一般的に、成人の用法・用量は1回につき100ミリグラムを1日に2回服用します。

脳梗塞の再発予防効果については、アスピリンという別の抗血小板薬との比較試験（CSPS II試験）が行われました。この試験の結果、シロスタゾールはアスピリンと比較して、出血性の合併症のリスクを大きく増やすことなく、脳血管系の病気の発生を有意に減らすことが示されています。

使用上の注意点：心不全がある場合

シロスタゾールは、鬱血性心不全を抱える患者さんには使用することができません（禁忌）。これは、心不全の状態を悪化させる可能性があるためです。シロスタゾールと同じPDE阻害薬に分類されるミルリノンやベスナリノンという薬剤を重度の心不全患者さんに投与した大規模な臨床試験において、薬を使ったグループの方がプラセボ（偽薬）を使ったグループよりも生存率が低くなったという報告があります。シロスタゾールでも同様のリスクが懸念されるため、心不全の既往がある方や、現在心不全の症状がある方には処方されません。

副作用

シロスタゾールを服用した際に起こりうる副作用として、最もよく報告されるのは頭痛です。その他にも、以下のような症状が現れることがあります。

下痢
頻脈（心臓が速く打つ）
動悸（心臓の鼓動を強く感じる）
めまい
吐き気

これらの症状が出た場合は、医師や薬剤師に相談してください。

他の薬剤との相互作用

シロスタゾールは、主に肝臓の薬物代謝酵素である「シトクロムP450」のCYP3A4やCYP2C19というタイプによって体内で分解されます。そのため、これらの酵素の働きを抑える作用を持つ他の薬剤と一緒に服用すると、シロスタゾールが分解されにくくなり、体内の血中濃度が上昇してしまう可能性があります。血中濃度が高くなると、副作用が現れやすくなることがあります。

CYP3A4を阻害する薬剤の例としては、イトラコナゾールやケトコナゾール（抗真菌薬）、エリスロマイシン（抗生物質）、ジルチアゼム（カルシウム拮抗薬）などがあります。また、CYP2C19を阻害するプロトンポンプ阻害薬の一種であるオメプラゾールなども、シロスタゾールの濃度を上昇させることが知られています。さらに、グレープフルーツジュースもCYP3A4の働きを抑えるため、シロスタゾールの血中濃度を上昇させる可能性が報告されており、一緒に摂取することは避けるべきとされています。

他の薬やサプリメント、特定の食品を摂取している場合は、必ず医師や薬剤師に相談し、適切な指示を受けてください。

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参考文献

大塚製薬 プレタール添付文書
* U.S. National Library of Medicine: Drug Information Portal - Cilostazol

（注：この情報は一般的な知識を提供するものであり、個々の患者さんの状態に基づいた医療アドバイスの代わりとなるものではありません。治療に関する決定は、必ず医師と相談して行ってください。）

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