シーネンツェッペリン

シーネンツェッペリン：プロペラ推進が生んだ鉄道の革新

シーネンツェッペリン（ドイツ語: Schienenzeppelin）は、1929年にドイツの航空技術者フランツ・クルッケンベルクによって設計・開発された、異色のプロペラ推進式鉄道車両です。「レールツェッペリン」とも呼ばれ、ツェッペリン飛行船を彷彿とさせる外観からその名が付けられました。試作車は1両のみ製造され、鉄道史にその名を刻んでいます。

誕生と記録

1930年代初頭、シーネンツェッペリンはドイツ国営鉄道（ドイツ国鉄）のハノーファー・ラインハウゼン工場で製造されました。同年秋に完成した車両は、全長25.85メートル、全高2.8メートル。二軸車で、ホイールベースは19.6メートルでした。当初は600馬力のBMW VI型12気筒航空機用エンジンを搭載し、セイヨウトネリコ製の固定ピッチ4枚羽プロペラ（後に2枚羽に変更）を駆動していました。

駆動軸は水平より7度上向きに傾斜しており、前進推力とともにダウンフォースを得る設計でした。車体は空気力学に基づいて設計され、当時のツェッペリン飛行船を思わせる流線形。軽量化のため、航空機製造の技術が応用されました。内装は質素ながらも、バウハウス様式を取り入れたモダンなデザインでした。

1931年5月10日、シーネンツェッペリンは初めて200km/hを突破。その後、ドイツ各地で一般公開されました。同年6月21日には、ベルリン-ハンブルク間のカールシュテット-デルゲンティン間で230km/hの世界記録を樹立。この記録は1954年まで破られることはなく、現在でもガソリン推進式鉄道車両の最高速度記録として保持されています。この驚異的な速度は、わずか20.3トンという軽量な車体によるところが大きいでしょう。

改良とその後

1932年、クルッケンベルクはシーネンツェッペリンの大規模な改良に着手します。前輪後部で車体を切断し、2軸ボギー台車を備えた新しい先頭部を取り付け、後のSVT137形に似た形状に変更。後輪はそのまま残されました。改造は1932年11月に完了。エンジンはそのままに、フォッティンガー式の流体トランスミッションを双方向駆動で前部台車に搭載。プロペラ部分には、尖ったフェアリングが装着されました。これにより、車軸配置は1-1からB-1へと変化しました。改造後のシーネンツェッペリンは、1933年初頭に180km/hを記録しています。

しかし、シーネンツェッペリンの試作車には多くの問題点がありました。そのため、ドイツ国鉄は独自の高速鉄道車両開発に乗り出し、1933年に高速鉄道車両「フリーゲンダー・ハンブルガー」を製造しました。この車両は定期運行に適しており、以後の鉄道車両開発の基礎となりました。もっとも、シーネンツェッペリンの経験から得られたクルッケンベルクのアイデアは、その後のドイツ国鉄の設計に影響を与えたといえるでしょう。

1934年初頭、シーネンツェッペリンは最後の改造を受け、マイバッハ GO 5型エンジンが搭載されました。同年7月、ドイツ帝国鉄道に1万ライヒスマルクで売却されましたが、1939年には金属を軍事転用するため解体されました。

失敗の要因

シーネンツェッペリンが実用化に至らなかった要因としては、構造上他の車両との連結が困難であること、混雑した駅でのプロペラの安全性の問題などが挙げられます。また、クルッケンベルクとドイツ国鉄がそれぞれ独自の高速鉄道車両を開発しようとした、激しい競争も影響したと考えられます。

フィクションへの登場

シーネンツェッペリンは、ウィルバート・オードリーの絵本「汽車のえほん」を原作とするテレビシリーズ「きかんしゃトーマス」に登場するキャラクター、ヒューゴのモデルとなりました。ヒューゴの運転手の名前は、シーネンツェッペリンの開発者と同じ「フランツ」です。

関連項目

アエロワゴン

外部リンク

（ドイツ語）Franz Kruckenbergs rail zeppelin

もう一度検索