シーリーン (サーサーン朝)

シーリーン：サーサーン朝の愛妃、その生涯と伝説

シーリーン（生年不明～628年）は、サーサーン朝の皇帝ホスロー2世の妃として知られています。彼女とホスロー2世の悲恋物語は、ニザーミーによって叙情詩『ホスローとシーリーン』として語り継がれ、ペルシア文学における重要なヒロインとなりました。

波乱の時代を生きた妃

シーリーンは、ホスロー2世が権力を掌握する以前、彼と共に東ローマ帝国へ亡命生活を送りました。591年にホスロー2世が王位を奪還すると、彼女は宮廷で影響力を持ち、少数派であったキリスト教徒を支援しました。当初は東方教会に所属していましたが、後にアンティオキアの合性論派教会へ改宗しています。

602年から628年にかけての東ローマ・サーサーン戦争中、ホスロー2世がエルサレムを占領した際、イエスの聖十字架を首都クテシフォンへ持ち帰りました。シーリーンはそれを自身の宮殿に運び込み、秘かに崇拝したと伝えられています。また、彼女は後継者争いにも関与し、自身の子マルダーンシャーを後継者に指名させました。

しかし、628年にホスロー2世がクーデターによって廃位されると、マルダーンシャーと共に処刑され、シーリーンもまた後を追うように自害しました。

文学作品の中のシーリーン

フィルドゥシーの『シャー・ナーメ』やニザーミーの『ホスローとシーリーン』など、多くの文学作品に登場するシーリーン。物語は史実とは異なる点も多いですが、彼女の信仰や亡命生活、王位奪還といった要素は共通して描かれています。

『ホスローとシーリーン』では、二人の偶然の出会いから始まり、様々な困難を乗り越えて愛を育む様子が描かれています。ホスロー2世の死後、彼の息子から結婚を強いられたシーリーンは、自ら命を絶つことでその要求を拒否しました。

生涯の謎と出自

シーリーンの出自については、様々な説があります。7世紀のアルメニア人歴史家セベオスは、彼女をサーサーン朝南西部のフーゼスターン州出身としていますが、シリアの年代記には「アラム人」であるとの記述も見られます。また、ペルシア人歴史家のミールホーンドは、ホスロー2世が若い頃に訪れていたペルシャ人の家の召使いだったと伝えています。

サーサーン朝への影響

ホスロー2世は、シーリーンを始めとする単性論派キリスト教徒を重用し、彼らに好意的な政策を取りました。一方、ネストリウス派には厳しく、その信徒であるラフム朝の王を処刑し、ラフム朝を滅ぼしました。このことが、後のイスラーム教徒によるペルシア征服の一因になったとも言われています。

後継者争いでは、シーリーンの影響力によって彼女の息子マルダーンシャーが後継者に指名されましたが、クーデターによってホスロー2世が廃位されると、マルダーンシャーも処刑されました。

ホスロー2世は、シーリーンにちなんで名付けた都市を建設しました。その一つが、ケルマーンシャー州にあるガスレ・シーリーン（「シーリーンの宮殿」の意味）です。

多様な出自の伝承

シーリーンの出自については、ローマ系、フーゼスターン州出身、アラム人など、様々な説が存在します。それぞれの伝承は、異なる視点から彼女の生涯を描き出しています。

関連事項

ベヒストゥン宮殿：シーリーンが長年住んだ宮殿
ホスローとシーリーン
ニザーミー
ガスレ・シーリーン：ケルマーンシャー州の都市
* サーサーン朝の音楽

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