シール・クーフ

アサドゥッディーン・シールクーフの生涯と業績

アサドゥッディーン・シールクーフ（アラビア語: أسد الدين شيركوه بن شاذي）は、1150年代から1160年代にかけて、エジプトやシリアで名を馳せたセルジューク朝及びザンギー朝の著名な武将です。彼は、アイユーブ朝の創始者であるサラーフッディーン（サラディン）の叔父でした。シールクーフの名前はアラビア語では「信仰の獅子」を意味し、クルド語では「山の獅子」を意味します。彼の出自はクルド人のシャージー族に属し、歴史的背景には彼の家系の影響が色濃く反映されています。

初期の活動とザンギー朝への仕官

シールクーフは、兄のナジュムッディーン・アイユーブと共に育ち、若い頃の具体的な活動については多くの記録が残っていませんが、シャッダード朝に仕官したとの説もあります。彼は父親の死後、友人のムジャーヒドゥッディーン・ビフルーズのもとに身を寄せ、政治的背景を築くことに成功しました。1137年、シールクーフは思わぬ事件に巻き込まれ、キリスト教徒の役人を殺害したことでティクリートを離れることになりますが、その後ザンギー朝を訪れ、ザンギーの子息たちに仕官しました。

兄弟間の対立と政権構造

ザンギーが暗殺されると、シールクーフは兄アイユーブと異なる道を選び、ヌールッディーンに仕官し続けます。彼は政治的な駆け引きにより、兄弟間の会談を成功させ、サイフッディーンとヌールッディーンの二政権の間で強い影響力を発揮しました。この間、イナブの戦いでの活躍を通じてヌールッディーンの信任を得ることができました。

エジプトへの遠征

シールクーフが特に名を馳せるのは、1164年から1169年にかけてのエジプト遠征です。彼はヌールッディーンの指揮のもと、三回にわたる大規模な遠征を実施しました。第一回の遠征では、ファーティマ朝の宰相シャーワルの要請を受けてカイロに到達し、ディルガームを討ちましたが、最終的には敵の連合に退去を余儀なくされました。

第二回の遠征では、シールクーフはシャーワルと連携する十字軍を裏から攻撃し、シリア軍の勝利を収めました。この成功により、彼はさらなる地位を確立しました。第三回の遠征では、ようやくシールクーフはエジプトを完全に掌握し、ファーティマ朝のカリフから宰相に任命されましたが、その直後に急逝します。

死去とその影響

1169年3月22日、シールクーフは宰相就任からわずか2ヶ月で亡くなりました。彼の死はエジプトにおける権力の空白を生み、後継者として甥のサラーフッディーンが選ばれることになり、アイユーブ朝の設立へとつながります。彼の死因は扁桃腺炎であると伝えられています。シールクーフの功績は、彼の後に続くアイユーブ朝にとっての基盤となり、その活躍を派手に彩りました。

人物像と逸話

シールクーフは、その果敢な戦略や戦術によって評価されていました。歴史家イブン・アル＝アシールによると、彼はヌールッディーンから多くの評価を受け、重要な役職に就くことができました。彼の勇敢な行動や決断は、戦局を左右する要因となり、多くの逸話が残されています。特に、第一回エジプト遠征における彼の挑発的な振る舞いや、第三回の遠征での強引な政治的台頭は、後世に語り継がれるものとなりました。シールクーフの業績は、彼の忠誠心、軍事的才能、そして政治的手腕の全てを示すものであり、後の時代においても多くの歴史的資料に色濃く記されています。

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