ジェリー・マリガン

ジェリー・マリガン（Gerry Mulligan、本名：Gerald Joseph Mulligan、1927年4月6日 - 1996年1月20日）は、アメリカ合衆国出身のジャズ・ミュージシャンです。彼は、サックス奏者、作曲家、編曲家として多岐にわたる才能を発揮し、特にジャズ界では数少ないバリトン・サックス奏者として名を馳せました。また、ピアニストとしても知られています。

ニューヨーク市クイーンズ区で生まれたマリガンは、父親の仕事の関係でオハイオ州マリオンへ転居しました。1940年代後半からフィラデルフィアで音楽活動を開始し、ギル・エヴァンスとの出会いをきっかけに、クロード・ソーンヒルのビッグバンドなどのために本格的にアレンジを手がけるようになりました。20歳そこそこの若さで、洗練されたモダンなアレンジを施し、ソフトなダンスバンドであったソーンヒル楽団のスタイル革新に大きく貢献しました。

その経験を活かし、1940年代末には、後にアルバム「クールの誕生 (Birth of Cool)」としてまとめられたマイルス・デイヴィスのビッグ・コンボに参加し、バリトンサックスでの演奏の他、「ジェル (Jeru)」「ミロのヴィーナス (Venus De Milo)」などの作曲を担当しました。さらに、モダン・ジャズ・ビッグバンドの代表的存在であるスタン・ケントン・オーケストラにも編曲を提供するなど、その才能は多岐にわたりました。

1952年、マリガンはカリフォルニア州に移り、トランペット奏者のチェット・ベイカーらとピアノレスカルテットを結成しました。当時、リズムセクションに鍵盤楽器が必須とされていたジャズの世界においては画期的な出来事であり、この動きがアメリカ西海岸におけるウエストコースト・ジャズの顕在化につながっていきました。マリガン・カルテットのデビュー・アルバムである「Gerry Mulligan Quartet」は、「バーニーズ・チューン」などが収録され、大きなヒットとなりました。マリガンはウエストコースト・ジャズの中心人物として西海岸に拠点を置きつつ、ベン・ウェブスター、デイヴ・ブルーベック、セロニアス・モンク、ズート・シムズらと交流を深めていきました。

1956年、ニューヨークに戻ったマリガンは、セロニアス・モンク等と共演し、1958年には映画『私は死にたくない』に出演しました。1963年にはアート・ファーマーらをメンバーに迎え、リーダー作「ナイト・ライツ (Night Lights)」を発表しました。1950年代のプログレッシヴな作品とは異なり、静謐なスタイルが貫かれており、彼の代表作の一つとなっています。ちなみに、タイトル曲ではマリガン自身がピアノを演奏しています（後年、CDのボーナストラックとして1965年にマリガンがクラリネットを演奏したテイクも収録されています）。

1970年代には、当時イタリアを拠点に活動していたバンドネオン奏者のアストル・ピアソラと意気投合し、競演作「Summit」を製作しました。1980年代に入ると、フュージョン色の強い音楽性を指向するようになり、「リトル・ビッグホーン (Little Big Horn)」などのフュージョンアルバムを発表するようになりました。この頃には世界ツアーも行っています。

マリガンは、ジーン・クルーパ、チコ・ハミルトン、ボブ・ブルックマイヤー、ジーン・クイルなど、数多くのミュージシャンと共演しました。

1996年1月20日、膝の外傷が元でコネチカット州ダリエンにて68歳で死去しました。

参考文献

ジャズ批評編集部編 編『ジャズ管楽器 : バリトン・サックス/ソプラノ・サックス/クラリネット/フルート/トロンボーン他』松坂〈ジャズ批評ブックス〉、2002年、26-27頁。ISBN 4-915557-12-X。
『リッスン：ジェリー・マリガン』ジェローム・クリンコウィッツ。

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