ジエチルカルバマジン

ジエチルカルバマジン、通称DECは、様々な種類のフィラリア症の治療に用いられる薬剤です。特に、リンパ系フィラリア症、熱帯性肺好酸球症、そしてロア糸状虫症といった疾患に対して主要な治療薬として位置づけられています。経口で投与されることが一般的です。

この薬剤は、特定のフィラリア感染症の予防目的で使用されることもあります。例えば、ロア糸状虫症のリスクが高いケースでの予防投与が行われることがあります。また、オンコセルカ症、いわゆる「河川盲目症」に対しても有効性を示しますが、現在ではイベルメクチンという別の薬剤が第一選択薬とされる傾向にあります。ジエチルカルバマジンは、バンクロフト糸状虫（Wuchereria bancrofti）、マレー糸状虫（Brugia malayi）、チモール糸状虫（Brugia timori）などによるリンパ系フィラリア症や、ロア糸状虫症、熱帯性肺好酸球症といったフィラリアが原因で起こる病気の治療に広く用いられています。これらの疾患、特にリンパ系フィラリア症やロア糸状虫症の治療においては、今なお中心的な役割を担っています。さらに、ヒトへの使用だけでなく、獣医学分野ではイヌの心臓病（フィラリア感染）の予防薬としても利用されています。

ジエチルカルバマジンの歴史は古く、1947年に発見されました。この薬剤の重要性は国際的にも認められており、世界保健機関（WHO）の必須医薬品リストにも収載されています。WHOは現在、フィラリアの幼虫であるミクロフィラリアに感染した患者の治療や、フィラリア症が流行している地域における感染拡大を抑えるための戦略において、DECの処方を積極的に推奨しています。

日本においては、1951年2月から販売が開始され、長年にわたり使用されてきました。一方、米国では一般的に市販されていませんが、必要に応じて疾病管理予防センター（CDC）を通じて入手が可能です。興味深い普及の例として、インドや中国の一部地域では、リンパ系フィラリア症の撲滅を目指す公衆衛生対策の一環として、日常的に摂取する食塩にジエチルカルバマジンを微量添加する試みが行われています。

ジエチルカルバマジンの作用機序は、主にフィラリアの幼虫であるミクロフィラリアに働きかけることにあります。具体的には、ミクロフィラリア内部のアラキドン酸代謝経路を阻害することで、幼虫が宿主（人間など）の自然免疫による攻撃を受けやすくなるように変化させます。この作用により、体内の免疫細胞がミクロフィラリアを効率的に排除できるようになります。ただし、この薬剤は寄生虫そのものを直接的かつ完全に殺滅する作用は持たないとされています。

ジエチルカルバマジンを使用する際には、いくつかの副作用が現れる可能性があります。比較的よく見られるものとしては、かゆみ（瘙痒）、顔の腫れ、頭痛、そして疲労感などが挙げられます。また、視力の一時的な低下やめまいなども報告されています。さらに注意が必要なのは、寄生虫が死滅する際に引き起こされる可能性のある過敏症状、いわゆるマズッティ反応です。これには発熱、リンパ節や陰嚢の腫れ、むくみ、悪寒、腹痛（疝痛）、筋肉痛、皮膚の発疹や炎症、さらには重篤なアレルギー性脳炎などが含まれます。特に眼に症状が現れた場合、視力障害が進み、最悪の場合には失明に至る危険性も指摘されています。

この薬剤の使用にあたっては、いくつかの禁忌事項が存在します。特に、心臓病、胃腸に関連する疾患、または薬剤に対する重篤なアレルギー反応の既往歴がある患者さんには、投与が推奨されない場合があります。妊娠中の女性に対する使用については、一般的に安全性が高いと考えられており、治療薬として推奨されるケースもあります。しかし、世界保健機関（WHO）は、緊急性の低いケースにおいては、可能な限り出産を終えてから治療を開始することを推奨しています。これは、母体と胎児双方にとって最も安全な選択肢を考慮した判断と言えるでしょう。

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