ジャイアント台風

ジャイアント台風 (ジャイアントタイフーン)

『ジャイアント台風』は、原作を高森朝雄、作画を辻なおきが手がけた日本の漫画作品です。1968年から1971年まで『週刊少年キング』(少年画報社) にて連載され、単行本は少年画報社、講談社、朝日ソノラマなどから様々なバージョンで刊行されました。

作品概要

この作品は、ジャイアント馬場の半生を драматичноに描いたもので、プロ野球選手としての挫折から、プロレスラーとしての成功までを描いています。物語は馬場自身の語り口で進められ、『タイガーマスク』と同時期に同じ作者コンビが手がけたこともあり、相乗効果で馬場の人気をさらに高めることになりました。

物語の中心は、アメリカ修行時代の馬場の活躍です。ただし、この部分はかなり自由に創作されており、馬場本人や、アントニオ・ロッカ、キラー・コワルスキー、フリッツ・フォン・エリック、バディ・ロジャース、プリモ・カルネラなど、彼と対戦したレスラーたちのイメージを実際とは異なる形で広めることにもなりました。

この作品は、『プロレススーパースター列伝』と並び、梶原一騎による実録プロレス漫画の代表作として知られています。また、梶原がプロレスラーの虚像作りに果たした役割の大きさを物語る作品でもあります。

創作の例

作品中には、史実とは異なる描写が数多く見られます。以下にその例を挙げます。

バディ・ロジャース: 当時NWA世界ヘビー級王者だったロジャースをWWWF世界ヘビー級王者として描き、馬場からの挑戦を恐れて逃げ回る人物として描いています。実際には、馬場本人はロジャースを「自分が一番憧れていた最高のレスラー」と絶賛していました。
フリッツ・フォン・エリック: 1961年にデューク・ケオムカと「オデッサの惨劇」と呼ばれる凄絶なデスマッチを行ったという設定ですが、実際の馬場との対戦はエリックが来日した1966年が最初です。また、エリックのアイアンクロー対策として、自分の顔面を地面に埋めてジープに轢かせるという奇抜な特訓が描かれています。
特訓: 作中に登場する様々な特訓は、ほとんどが創作です。馬場自身も、後にファンからこれらの特訓について質問された際、「そんなことをしたら死んでしまう」と否定しています。
キラー・コワルスキー: コワルスキーが菜食主義者になったのは、肉を見ると耳そぎ事件の時にちぎれた耳を思い出すからだという設定ですが、実際には耳そぎ事件以前から健康のために菜食をしていました。
プリモ・カルネラ: 元ヘビー級ボクサーであるカルネラとの対戦において、カルネラがボクサー時代のチャンピオンになるエピソードが語られますが、前チャンピオンのジャック・シャーキーはカルネラのパンチを受けて失神し、その直後に死亡したとされています。しかし、実際のシャーキーは1994年に呼吸停止で亡くなっており、91歳という長寿でした。
ジョージ・ミノル・岡本: アメリカで孤独な生活を送っていた時期の馬場と交流する日系人の少年として登場しますが、架空の人物です。
馬場の母親: 馬場の回想シーンに登場する母親の顔と体格が馬場そっくりに描かれており、中島らもに「あり得ない」と評されています。
馬場の生家: 馬場の生家は三条市中心部で八百屋を営んでいましたが、農村部にある茅葺き屋根の農家として描かれています。
* 出身高校: 新潟県立三条高校となっていますが実際には三条実業高校機械科です。

事実に基づいている点

日本プロレスの協力を得て、ジャイアント馬場への取材を元に構成されているため、事実に基づいている点も多くあります。特に、親友であるブルーノ・サンマルチノとの友情は丁寧に描かれています（ただし、サンマルチノは馬場とのアメリカでの交友関係を否定しています）。また、誇張はされていますが、ペドロ・モラレスからコーチを受けてドロップキック (32文ロケット砲) をマスターしたのも事実です。馬場のデビュー戦 (田中米太郎戦) の決め技が「股裂き」であることや、同門のアントニオ猪木との対戦など、日本国内の話は比較的事実に近いものが多いです。

新たな評価

映画化もされた『お父さんのバックドロップ』など、プロレスに関する作品を多く残している作家の中島らもは、定期的に読み返す愛読書としてこの作品を挙げています。

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