アントニオ・ロッカ

アントニオ・ロッカ（1927年4月13日 - 1977年3月15日）は、プロレス史にその名を刻んだ伝説的なレスラーです。イタリアのトレヴィーゾ生まれ、アルゼンチンで育ち、レスリング、ボクシング、陸上とあらゆるスポーツで才能を開花させました。

アルゼンチンでプロレスデビュー後、アメリカへ渡り、南部からニューヨークへと活躍の場を移します。そこで彼の華麗な空中殺法は瞬く間に人気を呼び、特にイタリア系移民やヒスパニック系移民からの支持は圧倒的でした。

1940年代後半から1960年代前半にかけては、ビンス・マクマホン・シニアがプロモーターを務めるWWWF（現WWE）で活躍。「マディソン・スクエア・ガーデンの帝王」として君臨し、長きに渡りトップレスラーの地位を確固たるものにしました。1948年には、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたトーナメントで初代WWWFインターナショナル・ヘビー級王座を獲得するなど、輝かしい実績を残しています。

ニューヨークでは、若き日のジャイアント馬場とも対戦しています。馬場は、ロッカとの対戦を振り返り、ロックアップからの攻防を想定していたものの、ロッカはセオリーを無視し、いきなり蹴りを入れてくるなど、予想外の展開に戸惑いを隠せなかったと語っています。

日本のプロレス団体への参戦はありませんでしたが、力道山はロッカとバディ・ロジャースの招聘を強く希望していました。しかし、ロッカはアメリカでの人気絶頂期で、スケジュールの都合がつかず、実現には至りませんでした。

日本との接点は、1975年10月、アントニオ猪木対ルー・テーズのNWFヘビー級選手権でレフェリーを務めた際の一度きりです。この来日は日本のプロレスファンや関係者に大きな衝撃を与え、「幻の名選手がついに来日した」と歓迎されました。しかし、これがロッカの生涯で唯一の来日となりました。

晩年はWWWFで実況担当のビンス・マクマホン・ジュニアを相方にカラー・コメンテーターを務め、リングからも解説席からもプロレス界に貢献しました。往年の輝きは失われつつありましたが、それでもリングに立ち続け、「75歳まで現役を続け、150歳まで生き続ける」と豪語していました。しかし、1977年3月15日、ニューヨークの病院で肝臓ガンのため49歳という若さで死去しました。

その功績は高く評価され、1995年にはWWE殿堂入りを果たしています。アントニオ猪木のリングネームの由来となった人物とも言われていますが、その真偽は定かではありません。また、漫画『ジャイアント台風』で描かれたロッカ像は、ほぼ全てが創作であり、実際の彼とは大きく異なります。

ブルーノ・サンマルチノやプリモ・カルネラは、ロッカと同じイタリア出身であるにもかかわらず、彼を全く信用しておらず、「臭いが違う」とまで言っていたという逸話も残っています。ロッカの代表的な必殺技であるアルゼンチン・バックブリーカーや、驚異的な跳躍力を生かしたドロップキック（アトミック・ドロップキック）は、多くのプロレスファンを魅了しました。その独特の容貌から「コウモリ、爬虫類、怪鳥」といった表現で形容されることもあった彼のドロップキックは、まるで「足だけが別の生き物」あるいは「ロッカの足には悪魔が棲んでいる」とさえ言わしめたほどでした。

初来日の際、ホテルを訪れた記者に「とうとう来たか…お前はFBIか…?」「俺をまだ…連れて行くな…」と呟いたというエピソードから、「アントニオ・ロッカは宇宙から来たインベーダーでは？」という噂が一部で流れたほど、神秘的な魅力に満ちたレスラーでした。彼の存在は、今もなお、プロレスファンの心に深く刻まれています。

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