バディ・ロジャース

バディ・ロジャース：悪役レスラーのカリスマとレガシー

バディ・ロジャース（1921年2月20日 - 1992年6月26日）は、アメリカ合衆国ニュージャージー州出身のプロレスラー。本名はハーマン・グスタフ・ロード・ジュニアだが、後にリングネームを正式名とした。

17歳でデール・ブラザース・サーカスに入団し、プロレスラーとしてのキャリアをスタート。当初は本名で活動していたが、後に「バディ・ロジャース」というリングネームに改名。この名前は、当時のアメリカで流行していたSF小説の登場人物に由来する。また、彼の代名詞ともなったニックネーム「ネイチャー・ボーイ」は、ナット・キング・コールの歌から取られたものであり、「自然児」とでも言うべき存在感を示していた。これらのネーミングやキャラクター設定はプロモーターのジャック・フェファーによるプロデュースであった。

ロジャースは、巧妙な反則や卑怯な戦法を得意としたヒール（悪役）レスラーとして知られ、そのスタイルは「ダーティー・チャンプ」の先駆けとなった。得意技は足4の字固め。リング上では気取った歩き方や、レフェリーの陰での反則行為、そしてピンチになると「Oh, No!」と叫んで許しを請うなど、観客を挑発するパフォーマンスで知られていた。こうしたダーティーなファイトスタイルやキャラクターは、後のリック・フレアーを始めとする多くのレスラーに大きな影響を与え、彼らに受け継がれていった。さらに、白タオルを持ち入場するスタイルはニック・ボックウィンクルを経てカート・ヘニングへと受け継がれるなど、彼のレガシーは現代のプロレス界にも色濃く残っている。金髪の伊達男系ヒールというキャラクターにおいても、ジャッキー・ファーゴ、レイ・スティーブンス、バディ・コルトなど多くのレスラーがロジャースのスタイルを踏襲している。

リングを降りてもロジャースは「悪役」のイメージが付きまとっていた。有名なエピソードとして、カール・ゴッチとの口論に端を発する「襲撃事件」がある。長らくゴッチの襲撃とされてきたこの事件は、実際にはゴッチの付き添いだったビル・ミラーがドアを蹴ったことでロジャースが負傷したという真相が後に明らかになっている。このエピソードはプロレス関連の書籍で脚色され、ロジャースが実力のないレスラーであるかのような描写がなされているが、これは事実とは異なる。

実際、1962年からNWA世界ヘビー級王座に幾度も挑戦したジャイアント馬場は、ロジャースをアメリカ修行時代の最高のレスラーと評し、その人気と実力を高く評価していた。また、ビンス・マクマホン・ジュニアもロジャースを最も尊敬するレスラーとして挙げている。天龍源一郎は、ロジャースとの対戦経験から「ロジャースの技は本物のレスリングの技で、本気で掛けてきた」と証言しており、試合の真剣さを語っている。

1940年代後半から数々のタイトルを獲得し、全米で高い観客動員力を誇るスーパースターとなったロジャースだったが、NWA世界ヘビー級王者に戴冠したのは1961年6月30日、シカゴのコミスキー・パークでのパット・オコーナー戦。この試合は38,622人を動員し、興行収入は17万5000ドルという当時のプロスポーツ興行記録を樹立した。ロジャース自身もこの試合を生涯のベストバウトと語っている。

1963年、ルー・テーズに敗れてNWA世界ヘビー級王座を失った後、ビンス・マクマホン・シニアが設立したWWWFに参加し、初代WWWF世界ヘビー級王者となる。しかし、ブルーノ・サンマルチノにわずか48秒で敗れ王座から転落、その後は選手として引退した。1978年に一時復帰し、リック・フレアーと対戦。「ネイチャーボーイ」の称号を継承する儀式を行うなど、後進へのバトンタッチを果たした。1980年代にはWWFでジミー・スヌーカのマネージャーを務め、インタビューコーナー「Rogers' Corner」の司会も担当した。

1992年6月26日、スーパーマーケットで転倒し、頭部を強打して死去。68歳だった。1994年にはWWF殿堂入りを果たした。

ロジャースは、独自の技も多く開発した。代表的な技に足4の字固め、アトミック・ドロップ（第二次世界大戦時のニックネーム「アトミック・ブロンド」に由来）などがある。

力道山は、ロジャースとアントニオ・ロッカの来日を熱望していたが、実現することはなかった。両者がアメリカマット界で非常に人気が高く、日本へ来る時間的余裕がなかったためである。ロッカは後に来日しているものの、ロジャースは生涯来日することなく、この世を去った。

誕生日が2月20日であることは、アントニオ猪木、長嶋茂雄と同じであるという興味深い事実もある。また、68歳の時、心臓と股関節の手術直後にもかかわらず、フロリダの飲食店に乱入した暴漢を取り押さえたエピソードは、人気コラムニストによって取り上げられるなど、彼の強さと人間性を感じさせる逸話として語り継がれている。

数々のタイトルを獲得し、プロレス界に多大なる貢献をしたバディ・ロジャース。彼の悪役レスラーとしての輝かしいキャリア、そしてその人間性、レガシーは、今もなお多くのプロレスファンに語り継がれている。彼の功績は、プロレス史に燦然と輝く金字塔として永遠に記憶されるだろう。

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