ジャガー・XJR-9

ジャガーXJR-9：伝説のレーシングカー

ジャガーXJR-9は、1988年シーズン、世界スポーツプロトタイプカー選手権（WSPC）とIMSA GT選手権を舞台に活躍した、トム・ウォーキンショー・レーシング（TWR）製プロトタイプレーシングカーです。その卓越した性能と、数々の栄光に彩られた歴史は、モータースポーツ史に大きな足跡を残しました。

開発と特徴

1987年までジャガーのレース活動に携わっていたグループ44から、1988年シーズンよりTWRがワークスチームを引き継ぎました。XJR-9は、XJR-8をベースにIMSAレギュレーションに適合させたマシンとして開発されました。

主な変更点として、IMSAの規定に合わせ、前後輪とも17インチタイヤを採用。XJR-8では前傾していたエンジンは水平マウントに変更されました。デザインはトニー・サウスゲートが担当しました。搭載エンジンは、WSPC用（グループC）が6,995cc、IMSA用（GTP）が6,000ccのV型12気筒。XJ-Sのエンジンをベースに、TWRとコスワースによるチューニングが施されました。

当初は1気筒2バルブのSOHCエンジンでしたが、1988年シーズン中にはDOHCヘッドを持つ4バルブエンジンが開発・投入されました。また、吸気方法も改良され、当初のコックピット後部から、1989年シーズンからは側面のNACAダクトに変更されました。ザイテック製エンジンマネージメントシステムの採用や、レーシングカーとしては珍しい電動ファンの採用など、エンジン冷却にも工夫が凝らされています。

シャシーはカーボンモノコック構造で、経年変化が少ないことから、スプリントレースで使用した車両をル・マン仕様に改造し、数シーズンにわたって使い回すことが可能でした。この戦略により、1988年ル・マン24時間レースには5台ものXJR-9が投入され、見事優勝を収めました。この成功は、XJR-9の優れた耐久性と開発力の証です。

1988年シーズンの戦績

WSPC:

WSPCでは、ザウバー・メルセデスと激しいタイトル争いを繰り広げました。開幕戦でザウバーに敗れたものの、その後ハラマ、モンツァ、シルバーストンと3連勝を飾ります。

ハイライトは、ル・マン24時間レースでの優勝でしょう。5台体制で挑んだレースは、復活したワークスポルシェとの死闘となりました。見事優勝を掴み取り、ジャガーに31年ぶり、イギリス車としてはアストンマーティン以来29年ぶりの栄冠をもたらしました。優勝チームの走行距離は5332.8kmに達し、これは当時の記録である1971年ポルシェ917の走行距離に迫るものでした。

ル・マン後も勝利を重ね、チームとドライバータイトル（マーティン・ブランドル）の二冠を達成しました。

IMSA-GTP:

IMSAシリーズデビュー戦となったデイトナ24時間レースでは、1-3フィニッシュという華々しい結果でスタートを切りました。しかし、優勝はデイトナと最終戦のデル・マーの2回にとどまり、ドライバーズタイトルは日産、マニュファクチャラータイトルはポルシェが獲得しました。

1989年シーズンの戦績

WSPC:

1989年はメルセデスのワークス参戦により、XJR-9は苦戦を強いられました。ターボエンジン搭載のXJR-11への移行を控えていたことも影響し、表彰台を獲得したのはハラマのみとなりました。

IMSA-GTP:

IMSAでも日産の強さが際立ち、XJR-9は2勝にとどまりました。デイトナ24時間レースで2位入賞とまずまずのスタートを切ったものの、その後は日産、ポルシェの後塵を拝するレースが続きました。XJR-10の投入後も優勝には届かず、シーズン終盤に2勝を挙げましたが、タイトル獲得とはなりませんでした。

シャシーとその後

XJR-9は、グループC仕様とIMSA-GTP仕様合わせて複数のシャシーが製作されました。それぞれのシャシーは、ル・マンやデイトナなど数々のレースで活躍し、その歴史の一部となりました。中には、現在も博物館に展示されている車両もあります。

XJR-9の高い性能と耐久性は、後の市販スポーツカーであるXJR-15の開発にも大きく貢献しました。その成功は、XJR-9の技術力と開発力の高さを物語っています。

もう一度検索