ジャン・ドゥーシェ

ジャン・ドゥーシェ：映画監督、批評家、そして教育者

ジャン・ドゥーシェ (1929年1月19日 - 2019年11月22日) は、20世紀後半のフランス映画界を代表する人物の一人です。映画監督、映画批評家、映画教育者、そして俳優として、多岐にわたる活動でその名を刻みました。彼の功績は、ヌーヴェルヴァーグ運動への貢献、映画批評における鋭い洞察力、そして後進の育成という三つの側面から理解することができます。

1929年、フランスのアラスに生まれたドゥーシェは、パリのソルボンヌ大学で哲学を学びました。若き日から映画への情熱を燃やし、『カイエ・デュ・シネマ』誌に初期から関与。同誌は、のちにヌーヴェルヴァーグを牽引する批評家たちの登竜門となり、ドゥーシェ自身もその中心人物として活躍しました。彼は、批評家仲間との活発な交流を通じて映画論を深めると同時に、多くの監督の作品に俳優として参加しました。その中には、ジャン＝リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』、フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』、ジャック・リヴェットの『セリーヌとジュリーは舟で行く』、ジャン・ユスターシュの『ママと娼婦』といったヌーヴェルヴァーグの代表作が含まれています。さらに、ジャン＝クロード・ブリソー、パトリス・シェロー、オタール・イオセリアーニといった監督の作品にも出演するなど、その活動は多方面に及びました。

ドゥーシェは、映画批評家としても卓越した才能を発揮しました。アルフレッド・ヒッチコックに関する研究は特に有名ですが、フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ、黒澤明、イングマール・ベルイマン、ジャン＝ダニエル・ポレなど、多様な監督の作品を深く分析し、独自の視点から映画史に光を当てました。『カイエ・デュ・シネマ』誌にセルジュ・ダネーを招き入れたのも、ドゥーシェの尽力によるものです。

教育者としてのドゥーシェの貢献も無視できません。フランス国立映像音響芸術学院（Fémis）で長年教鞭をとり、数多くの若手映画監督を育成しました。彼らが制作した作品には、ドゥーシェが俳優として出演している場合も多く、師弟関係の深さを物語っています。フランソワ・オゾンの『シットコム』、グザヴィエ・ボーヴォワの『N'oublie pas que tu vas mourir』、エミール・ドゥルーズの『Mister V』などがその例です。

監督としても、ドゥーシェは独自の映画作品を残しました。『Le Mannequin de Belleville』(1962年)、オムニバス映画『パリところどころ 第三話「サンジェルマン・デ・プレ」』(1965年)など、実験的な手法を取り入れた作品は高い評価を受けています。また、カルロ・ゴルドーニの戯曲を映画化した『La Servante aimante』(1995年)など、古典作品への新たな解釈にも挑戦しました。

1999年には、第56回ヴェネツィア国際映画祭の審査員を務めました。そして、2019年11月22日、パリで90歳の人生に幕を閉じました。

ドゥーシェが残した著作も豊富です。ヒッチコックに関する著書や、映画に関するエッセイ、論文は、映画研究に貴重な資料となっています。彼の仕事は、単なる映画作品や批評にとどまらず、20世紀後半の映画文化全体に大きな影響を与えたといえるでしょう。彼の名は、これからも映画史の中に輝き続けることでしょう。

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